お涙頂戴に振るのであれば、徹底的にやってほしかった。そんな声も漏れ伝わっているようだ。
3月7日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第110回では、病床の父・亀吉(柳葉敏郎)にヒロインのスズ子(趣里)が、自身の出自に関して尋ねる場面があった。
養女であるスズ子は、亀吉と母親のツヤ(水川あさみ)が本当の両親ではないことを知っていた。だが亀吉もツヤもそんなことはおくびにも出さず、実の娘と同じように育ててきた。
病に伏せる亀吉にスズ子は、いつかは本当のことを話してくれると思っていたが「話してくれんかった」と恨み節。すると亀吉はおもむろに「言う必要ないがな」と切り出し、「スズ子はわしとツヤちゃんのホンマの子やけん、言う必要ないやろ」との本心を明かしたのであった。
「亀吉の真意を知ったスズ子は涙を流しながら感謝し、亀吉も『一番優しいんはスズ子や』と返していました。この場面に涙を誘われる視聴者も多かったのですが、一方では今回の演出に疑問を抱く人も少なくなかったのです」(テレビ誌ライター)
二人の会話は血の繫がりがあろうとなかろうと、親子の絆が深いことを示すものだった。もとよりスズ子の家は家族愛にあふれており、仲の良さは実家の銭湯を舞台とした大阪編でも画面からあふれていたものだ。
一方で病床の亀吉は、孫の愛子を自分のカメラで撮影。愛子も喜んで撮られており、これも亀吉による家族愛の表れだろう。
「ところが亀吉が寝ている部屋には妻・ツヤの写真はなく、戦死した六郎の写真もありません。東京でスズ子と同居していた時には部屋に置いてあるツヤの写真をよく眺めていたのに、なぜ二人の故郷である香川ではツヤの写真がないのか、まったくもって意味不明なのです」(前出・テレビ誌ライター)
親戚の家に世話になっているとはいえ、本来なら肩身の狭い立場であろう亀吉。それならなおさらのこと、部屋にツヤの写真があってしかるべきだろう。
スズ子との会話で家族愛がクローズアップされているのに、そこにツヤが登場しないとは何事か。この謎演出で感動シーンが台無しになってしまったと、視聴者が落胆したのも無理のないことではないだろうか。