食に対して保守的になってしまっている自分がちょっと嫌になる時があります。ライターの仕事をしていて、飲食店の紹介記事などを書くこともあるのに、どうもいつも同じようなものばかり食べている。好奇心旺盛にどんどん新しい食の世界を開拓する人こそ、そのような仕事にふさわしいと思うのに、自分はすごく臆病です。たとえばラーメンが大好きなのですが、ラーメンの味が店によって色々だと言っても、ある程度は想像の範疇に収まりますよね。差異が小さいというか。
その点、“珍しい肉”の世界は想像の及ばない広がりを持っているように思えます。というか、そもそも日本で肉というと鶏肉か豚肉か牛肉ということになると思うのですが、それが普通だと感じているのも日本に住んでいるからですよね。
フランスや中国ではウサギ肉が割とポピュラーだそうですし(日本でもウサギを食べる地域があるそうです)、先日、ベトナムの市場を取材したテレビ番組を見ていたら、食用のカエルが普通に売られていました。沖縄ではヤギも食べるし、北海道や東北ではクマも昔からよく食べられています。
臆病な私ですが、ヤギもクマも食べたことがあります。大阪の居酒屋でカエルを食べたこともありますし、過去に取材でワニ肉やダチョウ肉を食べたこともありました。それぞれ、思ったよりもちゃんとおいしくて(よく食べている人もいるんだから、当たり前ですが)、「全然いける!」と思いました。が、そんなに頻繁に食べようとは思わないんですよね。なんかやっぱり「いつも食べている肉と違う!」という点ばかり気になってしまって…。
その点、鹿やイノシシは割と、いや、かなり好きかもしれません。つい先日、電車に乗って今まで降りたことのない駅で下車し、あてもなく散策して酒を飲むという趣旨の取材をしてきたのですが、行った先が割と静かな駅で、駅前に飲食店がほとんどなかったんです。それでもジビエ料理を出すお店がポツンとあって、思い切って入ってみました。80歳になる女性が1人でやっているお店で、聞くところによると旦那さんがマタギで、山で暮らしていて、それで新鮮なお肉が手に入るんだそうです。
まず最初に頂いたのが鹿肉の燻製。いわゆるジャーキー的な感じで、?めば?むほど味が出てくるんですが、その味がどこまでもキレイなんです。ビールのおいしさをグーンと高めてくれました。ジビエの味わいを大きく左右するのが狩猟後の処置だそうで、その道を極めたマタギの方だからこその技術によって、新鮮な肉がお店に送られてくるのだとか。
イノシシ肉を炒めたものも頂いたのですが、これはもう、普段食べている豚や牛よりも好きかもしれないと思いました。脂感が少なくて、あっさりしているから、若い頃より食の細くなった私もスイスイいけてしまう。これから私はジビエを食べていくべきなのではないかと、本気で思いました。赤ワインと一緒に味わった時の感動が忘れられません。その日はふらっといきなり行ったので食べられなかったのですが、事前に予約するとイノシシ鍋なども食べられるそうで、絶対にまた行きたい。
今書いていて思い出したのですが、馬もまたおいしいですね。熊本に旅をした際に食べた馬刺し、とんでもなくおいしかった。また、馬刺しに合わせた芋焼酎が最高で、その地域で食べられている肉には、それに合う酒がちゃんと用意されているものだと感じました。
馬やイノシシなど、普段食べない肉を食べると、体が元気になる気がしていいですよね。というわけで次回のテーマは「元気を出したい時のメシと酒」でどうでしょう!
スズキナオ:東京生まれ、大阪在住のフリーライター。著書に「遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ」「『それから』の大阪」他。「家から5分の旅館に泊まる」が絶賛発売中。