近年の生食ブームで食中毒事件まで起きた「ユッケ」という料理。社会の風潮で焼肉店も少なくなり、ユッケ自体の若年層の認知度も下がっているかもしれません。
ユッケは韓国で誕生した、牛生肉に特製ダレをかけ、卵黄や松の実などを混ぜ合わせて、食するという料理。それはそれは、おいしいものです。しかしながら、牛レバーを含めて法改正も進み、お店も提供ハードルが上がった…残念なことですが、仕方ないことです。
ですが、高品質ユッケなど生肉提供は厳しい国の基準をクリアすれば、お店や販売店、通販での提供は可能で、安心安全で食べることはできます。
今回はユッケについての誤解や判断基準を食品衛生法に詳しいT氏(飲食店経営、49歳)に解説していただきました。
―まず国で定められた、クリアすべき基準というのは?
T氏 牛肉の場合、食中毒の原因となる菌というのは以下の3つになります。「サルモネラ属菌」「O-111、O-157などの腸管出血性大腸菌」「カンピロバクター」。このような菌は牛の腸内に存在することから、牛肉解体業者などが細心の注意を払って、牛肉に付着しないように調理することです。
―なるほど。
T氏 挙げた3つの菌というのは、75℃1分以上加熱することで死滅するので、焼肉などの調理法なら問題はありません。ですが、菌が付着した生肉をそのまま食べる牛肉刺身やユッケ、牛レバーは食中毒のリスクが高くなるのです。
―そうでしょう。
T氏 このほかに徹底した肉の温度管理や調理器具の衛生管理を兼ね備えた施設が必要となり、生肉の表面を削り取るという“トリミング”が必要になってくるわけですね。
―ユッケに使うのはどのような部位ですか?
T氏 使用される部位としては、ランプ肉やモモの肉を使用します。柔らかい赤肉の肉質が適します。霜降り肉については、新鮮であればうまいと判断しがちですが、牛の脂というのは温度が下がると固まりやすくなるので、冷たい状態で食べるユッケには向きません。
―やはり、適した部位があるんですね。
T氏 一方、馬肉は食中毒の原因である菌がごく少量なので、リスクが少なく生食向きの食材といえます。
―生食が許されている肉の種類にはどんなものがありますか?
T氏 すべての生肉が食べられるわけではありません。詳しくは、牛肉は生食用食肉の衛生基準に準じていれば提供はOK(ユッケ、牛刺、タタキ、ローストビーフなど)。牛レバー、豚レバーは食品衛生法に基づいて、生食用として販売・提供することが禁じられています。鶏肉には生食用衛生基準がありません。カンピロバクターなどで食中毒の危険は高い。でも、鶏刺しなど提供販売は実質許されています。生食の食文化がある鹿児島地鶏などもある。馬肉は生食用食肉の衛生基準に達していれば提供OKです。鹿肉には生食の衛生基準なしです。E型肝炎ウイルスによる食中毒のリスクがあり、生食は非推奨。猪肉にも生食衛生基準はないですが、腸管出血性大腸菌、寄生虫、E型肝炎ウイルスによる食中毒の高リスクから、生食については推奨されていないとのことです。いずれにせよ、お子さんや高齢者の方などは生肉は控えたほうが無難ですね。
丸野裕行(まるの・ひろゆき):ライター、脚本家、特殊犯罪アナリスト。1976年、京都市生まれ。フリーライターを生業としながら、求人広告制作会社のコピーライター、各企業の宣伝広告などを担当。ポータルサイト・ガジェット通信では連載を持ち、独自の視点の記事を執筆するほか、原作者として遠藤憲一主演の映画「木屋町DARUMA」を製作。文化人、タレントとしてテレビなどにもたびたび出演している。