今年の下半期から放送されるNHK朝ドラ「ばけばけ」で、小泉八雲(パトリック・ラフカディオ・ハーン)の妻・松野トキ役に髙石あかりは決まっていたが、まだ八雲役は決まっていなかった昨年10月頃、「八雲役はウエンツ瑛士がいいと思う」と主張していたことを反省させてもらいたい。
なぜならウエンツでは、結婚して子どもを持つ父親になる八雲役を演じられない、と気付いたからだ。ウエンツは今年1月17日放送の「ザワつく!路線バスで寄り道の旅」(テレビ朝日系)に出演。「ばけばけ」のオーディションに落ちたことをネタに笑いを誘っていた。4カ月かかったオーディションで何が問題だったのかと共演者に問われたウエンツは、「演技」と答えていたが、2月20日放送の唐沢寿明主演ドラマ「プライベートバンカー」(テレ朝系)第7話にゲスト出演しているウエンツを見て、非常に納得してしまった。
ウエンツの演技は棒ではない。滑舌もいいし下手じゃない。しかし「アメリカ帰りの実力派プライベートバンカー・岡田大輔」にはまったく見えなかった。土屋アンナ演じる天宮寺沙織の大学時代の友人という設定だったが、土屋はきちんと大人に見えても、ウエンツは「大人のまねをしている青年」のような、実年齢は39歳なのに社会で働いたことがない「お子ちゃま」に見えて仕方がなかった。
私生活ではいくら実年齢より若く見えてもいいが、そのことが演じるキャラクターから説得力を奪うようでは役者失格だろう。2017年公開の映画「禅と骨 Zen and Bones」で若き日の主人公ヘンリ・ミトワを演じているウエンツの印象が強くて八雲役に推してしまったが、ごめんなさい。ウエンツは演技の仕事もする芸人に近いタレントになってしまっていました。悲しいけれど。
「ばけばけ」のオーディションに受かった時のことを考えて、今年は仕事を入れていないからスケジュールがガラ空きだと「ザワつく!路線バスで寄り道の旅」でボヤいていたウエンツ。それなら片っ端から演技のワークショップを受けてみるとか、小さいものから大きいものまでミュージカルを100本観てみるとか、自分と向き合いながら地道な努力をしてみてはいかがだろうか。バラエティ番組に出演して自分をネタに笑いを誘うのでなく、自分にとってイヤなこと、キツイこと、ツライことをして、大人の顔を見せることもできるようになってほしい。
(森山いま)