興収100億円も間近という驚異的なヒットを飛ばしている映画「君の名は。」。舞台となった岐阜県では、古い駅や町の小さな図書館、人知れぬ神社の鳥居に集うファンの姿に地元民が目を丸くし、同じく舞台となった都内の歩道橋も、新海誠監督自身が「生活圏なのに、もうここは通えないから他の道を使っている」と嘆くほど、カメラを持った大勢の人々であふれ返っている。
政府が言うところの「クールジャパン・コンテンツ」によって地方創生が多少でも実現し、閑散とした町に活気が戻るのは喜ばしいことだろう。しかし裏では、「国内では作品が作りにくい」という意見も聞かれ、中国や韓国でアニメスタジオが急増し、日本人作家やスタッフが海外に出てしまうことが危惧されているという。そして、もう1つ問題となっているのが“作品のドメスティック化”だ。
「漫画原作はまだしも、オリジナルアニメは国内を舞台にした日本人だけが登場する作品が主流で、どんどん“ドメスティック化”が進んでいるのです。顕著になったのは、大友克洋監督の『スチームボーイ』(04年公開)が大方の予想を裏切り大コケした頃から。海外を舞台にすると、国内では人気が出ないのです。海外に憧れを抱く時代が終わり、文化的な部分を含めて過去、そして現在の日本に観客の志向が流れていることも要因のひとつです。一方、ドメスティックな作品は海外では理解されにくい。作品で描かれる日本に興味を持った海外の観光客が増えているのも事実ですが、このままではグローバルな視点を持った作品が生まれにくくなるでしょう」(映画評論家)
「千と千尋の神隠し」(01年公開)は純日本的な内容の作品だが、ベルリン国際映画祭の金熊賞とアカデミー長編アニメ映画賞を受賞し、国際的な評価が高い。宮崎駿監督のような人物が現れるなら、ドメスティックな方向性でも、もっと広がりを持つことになるかもしれないのだが。