再放送中のNHK連続テレビ小説「あまちゃん」では、4月21日放送の第17回にて、岩手の村に住む足立ユイ(橋本愛)が「私、アイドルになるの」と打ち明ける場面が。その言葉に対してヒロインの天野アキ(能年玲奈)が見せた反応に、視聴者が戸惑っているという。
東京から転校してきたアキと友達になったユイは、地元でも話題の美少女。田舎暮らしに飽き飽きしており、すぐにでも東京に行きたいという。
ユイはある日、高校からの帰り道に「言っちゃおうかな。誰にも言わないでね」と念押ししたうえで、「私、アイドルになるの」と告白。本作にて初めて、アイドルという言葉が具体性を持った瞬間だった。
「令和の視聴者は、アキやユイが今後アイドルになる流れを知っていますから《ついにキター!》と大喜び。その一方で、ユイの告白に対するアキの反応があまりにも意外すぎることに、驚いてもいたのです」(芸能ライター)
アキはユイの告白に対して文字通り、鳩が豆鉄砲を食らったような顔つきに。ナレーションでは「何言ってんだこの子は。開いた口がふさがらないとはこのことです。バカなのか」とまで説明していた。つまり作中の2008年当時、田舎に住む女子高生がアイドルを目指すことなど、夢物語に過ぎなかったことを示していたのである。
「あまちゃん」が放送されていた2013年にはすでにAKB48をはじめとするアイドルグループが大人気を博しており、2010年発表の「ヘビーローテーション」は知らない人がいないほどの人気曲に。女子中高生がアイドルを目指すこと自体は何ら、珍しいことではなくなっていた。
ただ作中の2008年当時には、アイドルグループが今ほどの市民権を得ていたとは言い難かった。それこそAKB48では2008年2月発売の8thシングル「桜の花びらたち2008」を最後に、ソニー系列のデフスターレコードから契約を打ち切られることに。次作の9thシングル「大声ダイヤモンド」からキングレコードに移籍するなど、まだ足元が固まっていない時期だったのである。
しかも当時はまだ、アイドルグループの多くは大手の芸能事務所やテレビ局が主導。ユイのように片田舎に住むただの美少女がアイドルになるチャンスはほとんどなく、だからこそ彼女は東京に出たがっていたのである。
「令和の現在なら、ユイがどんな田舎に住んでいようが、アイドルを目指すことに疑問を持つ人はいないでしょう。しかし15年前には本気で『お前なに言ってんだ!?』と呆れかえる人が少なくなかったのです。東京から来たアキでさえそうだったのですから、当時は一般人と芸能界の間には、乗り越えるのが大変なほどの高いハードルがそびえたっていました」(前出・芸能ライター)
2008年当時はまだYouTubeもマイナーな存在で、YouTuberという言葉もなく、HIKAKINのような先駆者は「動画系男子」と呼ばれていたもの。
今では女子高生にとって当たり前のアイテムであるスマホも、2008年7月にソフトバンクから「iPhone 3G」がリリースされるまで、日本国内の利用者はほぼ皆無だった。インターネットも接続手段は電話回線を使ったADSLなど主流であり、ユイやアキが日常的にネットを使う状況ではなかったのである。
「いまやアイドルにとって必須のSNSである『ツイッター』でさえ、2008年当時に日本人でアカウントを持っていた人はほぼ皆無。ホリエモンこと堀江貴文氏でさえアカウント開設が2009年6月だったのですから、当時の状況がお判りでしょう。令和の視聴者から見ても違和感の少ない『あまちゃん』とは言え、作中の15年前には現代と異なる事情がたくさんあったのです」(前出・芸能ライター)
その意味では、現在につながるアイドル文化を朝ドラで取り上げた「あまちゃん」、そして脚本を担当したクドカンこと宮藤官九郎の凄みが伝わってくる回でもあったのではないだろうか。