二重の意味で、このセリフを理解できなかったようだ。
5月17日に再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第39回では、春子(小泉今日子)が24年前の高校生当時に吹き込んだデモテープを聴くことに。そこで交わされた会話に、時の流れがにじみ出ていたという。
岩手・北三陸市で生まれ育った春子はアイドルになることを夢見て、デモテープを制作。オーディション番組「君でもスターだよ!」のテープ審査に合格し、東京で行われる公開審査に進出していた。
春子のことが好きだった大吉(杉本哲太)は、今でもそのテープを「オラあ、しょっちゅう聴いてる」と述懐。ヒロシ(小池徹平)が「テープ伸びないですか?」と訊ねると、「冷蔵庫で冷やしてる」と大真面目に答えていた。そのシーンに対して疑問の声があがっているというのだ。
「2013年の本放送当時であればほとんどの視聴者が《そうそう、冷蔵庫に入れてたよね》とうなずいていたことでしょう。ところが令和の現在、30代以下の若い視聴者からは《なぜ冷やすの?》《何の意味が…》といった疑問が続出。どうやらテープが伸びるという概念自体を理解できていない様子でした」(テレビ誌ライター)
2013年(平成25年)当時もカセットテープはすでに廃れており、音楽を聴く手段はCDに移行していた。ただスマホがまだほとんど普及していなかったこともあり、録音するならカセットテープでという概念自体は残っていたのである。
そのため「カセットテープを暑い場所に放置してはいけない」「テープが伸びると聞けなくなってしまう」という知恵は多くの人たちが共有していた。大吉がテープを冷蔵庫で保管していたという下りも、本放送の当時にはほとんどの視聴者が共感していたものだ。
「それが令和の現在では『テープが伸びる』という概念が若い視聴者には理解できず、大吉の冷蔵庫発言も意味不明だったのです。それどころか今回の放送で、カセットテープを再生・録音するところを初めて観たという視聴者も少なくありません」(前出・テレビ誌ライター)
そもそも最近の若者は「テープ」という単語を聞いたとき、カセットテープをイメージすること自体がないようだ。机にカセットテープとセロテープが置いてあったとして「テープ取って」と頼んだら、ほとんどの若者はセロテープを手渡してくれるに違いない。
「個人的に衝撃だったのは、取材に同行した新入社員に『テープ起こし、しておいて』と頼んだら、真顔で『それって何ですか?』と聞き返されたこと。たしかにカセットテープではなくICレコーダーで録音していましたが、いまどきの若者には『文字起こし』と言わないと通じないようです」(マスコミ関係者)
ビデオテープも含めて、令和時代の若者には「巻き戻す」という表現も通じないという。CD時代になってからA面・B面という概念も失われたが、どうやらカセットテープは蓄音機さながらに過去の遺物となっていたようだ。