身勝手な主人公をどう描きたいのか。その端緒が示されていたのだろうか。
5月23日放送のNHK連続テレビ小説「らんまん」第37回では、東京大学の植物学教室に通い始めた主人公の万太郎(神木隆之介)が、周りから「よそ者」扱いされる姿が描かれた。そこに本作を通底するテーマが隠されているかもしれないという。
田邊教授(要潤)から植物学教室への出入りを許された万太郎だが、田辺教授以外は助教授の徳永(田中哲司)や講師の大窪(今野浩喜)など、万太郎のことを面白く思わない面々ばかり。学生たちに植物学について熱く話しかけても、学生の藤丸(前原瑞樹)からは「いいですよねあなたは。宿題も試験も論文もない」と疎まれるばかりだ。
「現代の基準で考えれば、学歴のない万太郎が大学の研究室に通うことなどありえないのは明らか。視聴者にも藤丸と同様に、万太郎のことをお気楽なご身分だと呆れている人は少なくないでしょう。しかも今回は教室の関係者のみならず、出入り業者の画工である野宮(亀田佳明)からも『よそ者』呼ばわりされる始末。田邊教授や一部の学生以外、万太郎の味方はいないも同然です」(テレビ誌ライター)
本作のモデルである牧野富太郎博士も、東京大学では多くの関係者に疎まれていた。それでも理解者に恵まれ、植物学に懸ける熱すぎる情熱が認められたこともあって、のちには助手の仕事を得ることができていたである。
ただ、牧野博士のケースがあまりにも特殊であることもまた事実。造り酒屋の一人息子ゆえに当初は金にも困ることなく研究に没頭できたという面も無視できない。それゆえ牧野博士の人生をただトレースしただけでは、わがままで運に恵まれた研究者像を描くことになりかねないのだ。
しかしそれではドラマとして、視聴者に訴求する部分に欠けることも否めない。果たして「らんまん」の制作陣は万太郎を通して、何を描こうとしているのか。その一面が今回、万太郎自身の口から語られたというのである。
「十徳長屋の差配・江口りん(安藤玉恵)を洋食屋に招待した万太郎。りんは万太郎が大学で浮いていると鋭く指摘していました。すると万太郎は自分が究めようとしている植物学について『まだ学問を始めるための準備をやりゆう最中ですき、関心ある者らあが総がかりでやらんと、いつまでたったち外国に追いつけません』と熱く語っていたのです」(前出・テレビ誌ライター)
たしかに明治時代の植物学は、海外から輸入したばかりの学問に過ぎなかった。アメリカから入手した書籍をもとに英語で抗議する姿は、田邊教授が米コーネル大学で受けていた授業をトレースしているだけとも言える。
学問としてはよちよち歩きの状況に過ぎず、国内で入手できる書籍を読み漁っていた万太郎の学習レベルは、東京大学の学生たちと大差なかったのが実情だった。
「これは明治時代の植物学に限らず、あらゆる『新分野』に共通する状況かもしれません。万太郎の姿を通して制作側は、新たな分野に挑戦しようとするときには既存の価値観にとらわれず、関心や志のある者たちが率先して道を切り拓いていくべきであることを、本作を通じて描きたいのではないでしょうか」(前出・テレビ誌ライター)
IT時代の現代にも、万太郎のような破天荒な人物が新時代を切り拓いた例は少なくない。そのように時代を超えた先駆者の姿を「らんまん」では描こうとしているのかもしれない。