歴史こそは間違うべきではなかったのでは。そう残念がる視聴者も少なくなかったことだろう。
8月16日放送のNHK連続テレビ小説「らんまん」第98回では、主人公・万太郎(神木隆之介)のもとを旧友の広瀬佑一郎(中村蒼)が訪問。アメリカで技師として働いてきた思い出などを語り合っていた。
そのなかで佑一郎はアメリカで実感した差別について言及。「雑草という草はない」を持論とする万太郎は差別とは無縁だと評し、一方で万太郎は札幌農学校に教授として迎えられた佑一郎を素直に褒めていた。
動乱の明治時代を舞台にするなか、佑一郎が見聞してきた差別を大きなテーマとして取り上げた今回。その狙いは万太郎の人物再評価にあるのだろうか。だが現代にも繋がる大きなテーマを扱うにあたって、残念な描写も聞き逃すことができなかったという。
「佑一郎は鉄道技術者として南部で働いていたと説明。その地には黒船の出港した港もあり、『日本で幕府が倒れ、新政府ができたころに、アメリカでも北部と南部で大きな戦争をやりよったがじゃ』と語っていました。ここから人種差別に話が展開したのですが、その前提部分に明らかな時代考証のミスがあったのです」(テレビ誌ライター)
佑一郎が言及した「南北戦争」は1861年4月12日に始まり、1865年4月9日に終結していた。アメリカ合衆国(北軍)からの独立を目指したアメリカ連合国(南軍)が破れ、名目上は奴隷制が廃止されることとなった。
その時期、日本では江戸幕府が崩壊し、明治新政府が成立。年号も明治へと改まり、作中で「御一新」と呼ばれる明治維新が到来していた。その時期が重なっていると佑一郎は指摘していたのだが、その主張は史実とは異なっているのである。
「明治維新の範囲については諸説ありますが、15代将軍の徳川慶喜が政権を返上した『大政奉還』は1867年11月9日と明確。明治天皇が『王政復古の大号令』を宣言したのは1868年1月3日であり、いずれも南北戦争が終結した後のことです。江戸幕府崩壊の象徴的な出来事とされる『第二次長州征討』は1865年5月に始まったとされており、これまた南北戦争の後。すなわち佑一郎が説明した明治維新と南北戦争の前後関係は、明らかに誤っているのです」(前出・テレビ誌ライター)
現在ほど歴史書が整備されていない時期ゆえ、佑一郎がおおよその感覚として、南北戦争と明治維新は同時期と捉えていたことは想像に難くない。とはいえ令和の現代に描かれるドラマとして、時代考証はいくらでも完璧にできるはずだ。
それこそ佑一郎に「御一新の前に、アメリカでは北部と南部が大きな戦争をやりよった」と言わせても良かったはず。果たして制作側は歴史をおおざっぱな流れとして捉えているのか、それとも単なる考証ミスなのか。19世紀後半の歴史を学んだ人たちにとっては、なんともスッキリしない内容となっていたことだろう。