その言葉を、現実と重ね合わせた視聴者もいたことだろう。
8月31日に再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第130回では、映画「潮騒のメモリー~母娘の島」がクランクアップ。ヒロインのアキ(能年玲奈)にとって最後の場面は、病に伏せる母親役の鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)に別れを告げる場面だ。
この場面でひろ美はアドリブを展開。布団から起き出してタンスの引き出しを開け、美術備品のタオルを取り出し、それで涙をふくように促していた。その演技は、アキ自身が北三陸に住む祖母の夏(宮本信子)から「北の海女」と染め抜かれた手ぬぐいを渡されたときに掛けられた言葉を再現したかのようだった。
ひろ美のセリフに夏との思い出を重ね合わせたアキ。この瞬間に彼女は役柄の鈴鹿アキではなく、素の天野アキとして本心からの涙をこぼしていた。そうやってアキの魅力を存分に引き出していたひろ美は、打ち上げの席で実にクリティカルな指摘を披露したのである。
「二人きりの打ち上げでひろ美は、アキは女優としてダメだと断言。その理由として『あれは鈴鹿アキじゃなくて天野アキだったもんね』と説明しつつ、『いま日本で天野アキをやらせたら、あんたの右に出る女優はいません。だから続けなさい』と叱咤激励していました。この言葉に、現実との奇妙な一致を感じる視聴者も少なくなかったのです」(テレビ誌ライター)
アキを演じる能年玲奈は「あまちゃん」が終了した1年半後の2015年1月に個人事務所を設立。自らデザインしたグッズの販売会社であり、所属事務所との契約には影響しないと主張していた。
だが所属事務所とは契約を巡ってトラブルとなり、能年は2016年6月に「のん」と改名。前事務所との契約により、本名でもある芸名を使えなくなったことが理由の一つだった。
そのまま現在も「のん」として活動し続けている彼女。今回の「あまちゃん」では10年前の作品として能年玲奈でクレジット表記されているが、9月に開催される「あまちゃん10周年スペシャルコンサート」には“のん”として出演している。
「名前こそ“のん”になったものの、改名後も数々の映画で存在感を示し、女優としての実力はお墨付き。その姿はひろ美が説明したように『いま日本で“のん”をやらせたら、あんたの右に出る女優はいません』と言えるのではないでしょうか」(前出・テレビ誌ライター)
再放送中の「あまちゃん」を見ながら、天才的な演技を見せる能年に<彼女が今後、トラブルに巻き込まれるのか…>との感慨を覚える視聴者も少なくない。だが天野アキとして見せた演技の素晴らしさは能年の才能そのもの。その才能が現在は“のん”として発揮されている。名前がどう変わろうとも、女優としての彼女が天下一品であることに変わりはないようだ。