海外市場を意識していれば、この選択はありえなかったはず。そう指摘する声は小さくないようだ。
性加害問題に揺れるジャニーズ事務所では9月7日、記者会見を開催し、元少年隊の東山紀之が新社長に就任する人事を発表。藤島ジュリー景子現社長も出席した記者会見はテレビ東京以外の民放キー局4局に加えてNHKでも生中継され、日本中からの注目を集めている。
会見ではジュリー氏の社長辞任や、事務所として被害者に対する補償を行うことも発表。ジュリー氏の母親であるメリー喜多川氏が2021年に亡くなった後、会社の株式はジュリー氏が100%を保有していることも明かされた。
会見でジュリー氏は「同族経営の弊害」について言及し、今後は株主構成にも変化が訪れることも示唆。所属タレントとはいえ親類縁者ではない東山が社長になることが、同族経営脱却の第一歩になるという認識のようだ。
だが今回の選択により今後、ジャニーズ事務所のアメリカ市場進出は絶望的になったとの指摘もあるという。それはアメリカにおける性加害問題をめぐる状況を鑑みれば、当然のことだというのだ。
「アメリカの芸能界で性加害問題と言えば、大物映画プロデューサーのハービー・ワインスティーンが2018年に逮捕された事件があまりにも有名。自分の立場を悪用して数多くの女優やモデルを食い物にし、2022年には禁固23年の有罪判決を受けました。今年にはさらに禁固16年が追加され、71歳のワインスティーン受刑者にとっては事実上の終身刑となっています。この事件を受け、自身が経営する映画会社も破産。彼が築き上げた名声は地に堕ちました」(芸能ライター)
アメリカではジャニーズ事務所の性加害問題を、ワインスティーン受刑者になぞらえる声が少なくない。ただ両者の違いを挙げれば、ジャニーズ事務所では会社自体が存続しており、今回も東山を新社長に据えることで事業を継続している点だ。
だが、40年以上にもわたってジャニーズ事務所の所属タレントだった東山を新社長に選んだのは、アメリカ側の視点から見れば明らかに大失策だという。それはアメリカで最も人気のあるスポーツであるアメリカンフットボール界を揺るがせた事件を見れば、明らかだというのである。
「フットボールの名門として全米に知られるペンシルベニア州立大学で2011年に発覚した『児童性的虐待スキャンダル』は、アメリカで知らぬ人のいない大事件です。同チームのコーチが15年以上にわたり、起訴されただけでも52件の性的児童虐待を行い、懲役30~60年の判決を受けたもの。この一件により同フットボール部を46年間にわたって率いた伝説的な名将のジョー・パターノ氏は晩節を汚し、公式記録からも111勝分が抹消される処分を受けました」(スポーツライター)
パターノ氏自身は事件に関わっていなかったものの、部下のコーチが性的虐待している事実を知りながら、防ぐための行動や通報を怠っていた。これにより大学側からヘッドコーチを解任されたのに加え、当時の学長や体育局長も一緒に解任されたのである。
このケースをジャニーズ事務所に当てはめれば、故・ジャニー喜多川氏による性加害行為を知っていたであろう所属タレントや事務所スタッフは全員、同事務所の経営に関わるべきではないということになる。少なくてもアメリカの基準ではそうなるわけだ。
「同事務所所属のTravis Japanがアメリカに留学したり、現地のオーディション番組『アメリカズ・ゴット・タレント(AGT)』に出演するなど、ジャニーズ事務所ではアメリカ進出を目論んできました。しかし東山を新社長に据えたジャニーズ事務所のアメリカ進出などありえないというのが現地での常識。それどころかアメリカ国内でのMV収録でさえ、許可が下りるかどうかが危ぶまれます」(前出・芸能ライター)
現在の状況では、事態の打開に際して海外進出まで頭が回らないのかもしれない。だが世間からも被害者の会からも、東山の新社長就任には疑問の声があがっている。それなのになぜ、東山を新社長に据えたのか。この選択が裏目に出るかどうかが分かるのは、そう遠いことではないのかもしれない。