辛い話をあえて明るく描くのも、朝ドラとしての重要な演出なのだろう。
9月8日に再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第137回では、ヒロインのアキ(能年玲奈)が岩手・袖が浜に帰郷。地元の人たちから熱烈歓迎を受ける姿に、視聴者も涙を誘われていたようだ。
それぞれ「おかえり」の横断幕を作るなど、精一杯の気持ちを込めてアキを迎え入れた地元の人たち。口々に「アキがいなくて寂しかった!」と語る言葉は本心そのものだ。
それは袖が浜におけるアキの自宅である、夏ばっぱ(宮本信子)の家に集ったときも同じだった。即席の歓迎会では視聴者にもすっかりおなじみとなった「まめぶ」をふるまい、笑顔が絶えない場となっていた。そんなハレの場で、地元の被災状況も語られたのである。
「花巻(伊勢志摩)は自宅が流され、現在は二人の子供を育ててながらパートに精を出す毎日。漁協組合長(でんでん)とかつ枝(木野花)の家も全壊し、仮設住宅を申し込んでいます。ブティック今野もめちゃめちゃになり、店主のあつし(菅原大吉)と弥生(渡辺えり)は親戚の家に身を寄せていました。そんな悲惨な状況を全員がさらっと口にする姿には、被災地で暮らす人たちの強さがありありと描かれていたのではないでしょうか」(テレビ誌ライター)
そして夏ばっぱは病み上がりの高齢者にもかかわらず、海に潜ってウニを獲っていた。アキのメールに返信しなかったのは、いつものクセで携帯電話を身に着けたまま潜ってしまい、水没させていたから。今回でもう4台目だという。
その夏ばっぱは以前、アキが「今年の夏は潜らないよね?」とメールした際に、ただ一言「お構いねぐ」と返していた。よもや夏に嫌われたのかと心配していたアキだが、それは杞憂だったことが明らかになった。ではなぜ夏は「お構いねぐ」と返事していたのか。その理由もまた、今回の作中に描かれていたというのだ。
「震災から3カ月が経った6月になっても現地の復興はまだまだ進んでおらず、袖が浜の人たちはそれぞれ必死に、そして力強く生き抜いていました。すなわち夏が返信した『お構いねぐ』とは放っておいてくれということではなく、『頑張っているから大丈夫だ』という意味だったのではないでしょうか。普段から言葉がぶっきらぼうな夏だからこその表現だったと言えそうです」(前出・テレビ誌ライター)
夏の返信がネガティブなものだったのであれば、戻ってきたアキに会った際にもっと暗い表情を見せていたはず。だが夏はこれまでと同じように海に潜りながら、孫のアキを迎え入れていた。その姿こそ「大丈夫」を体現していたはず。視聴者も袖が浜の人たちが示した強さに、感心していたに違いないだろう。