史実なんてどうでもいいじゃないか。こればかりは視聴者もそう思ったことだろう。
9月14日放送のNHK連続テレビ小説「らんまん」第119回では、主人公の万太郎(神木隆之介)が土佐にいたころ、親交を結んでいた早川逸馬(宮野真守)が登場。逸馬の紹介により、神戸の資産家である永守徹(中川大志)に引き合わせてもらっていた。
万太郎のモデルである牧野富太郎博士は、池長孟という資産家の援助を受け、借金を清算。膨大な植物標本の散逸を防いだのは史実として残っている話だ。
しかし史実に従うと、逸馬のモデルである自由民権運動家の植木枝盛は作中の明治31年時点ですでに亡くなっており、本来なら物語に登場することはあり得ないのである。
それゆえ逸馬の再登場は、物語的には不自然という事になる。それでも「らんまん」の視聴者は、史実に反した描写を大歓迎しているというのだ。その理由は「視聴者ファースト」にあるという。
「いくら史実がベースとはいえ、物語を描くにはどうしても創作要素が入ってくるもの。その際、制作側の思想が入ってくると視聴者にも敏感に伝わりがちです。本作では制作側の反戦思想が見え隠れしており、眉をひそめる視聴者も少なくありません。それに対して逸馬の再登場はあくまで視聴者のリクエストに応えたものであり、歓迎されるのも当然でしょう」(テレビ誌ライター)
9月14日付の「マイナビニュース」によると、逸馬の再登場は視聴者による反響の大きさを受けたものだという。しかも当初の脚本を書き換えてまで、逸馬の出番を作ったというのだ。
そんな「改変」なら視聴者も大歓迎。これぞドラマならではの創作要素と言えるのではないか。史実的には逸馬の再登場がいかに不自然であっても、映像作品とは視聴者に観てもらうことに意味があるというもの。今回ばかりは制作側の狙いがドンピシャだったと言えるのではないだろうか。