物語が面白くなるなら、こんな脚色も視聴者は大歓迎かもしれない。
11月28日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」では、戦争の影響でヒロイン・福来スズ子(趣里)のステージにさまざまな制約が課せられる様子が描かれた。そんな状況で突如、スズ子に弟子入りを懇願する少女が現れたのである。
福島から出てきた小林小夜(富田望生)は、東京のことは何も知らず、所持金もないと言う。気の毒に思ったのかスズ子は、弟子は取らないが放っておくこともできないと宣言。どうやら今後、小夜がスズ子の内弟子的な役割を果たすことになりそうだ。
だがスズ子のモデルであるブギの女王こと笠置シヅ子が弟子を取っていたとの記録はないという。ここまでは笠置の人生をわりと忠実に再現していた「ブギウギ」にてなぜ、架空の人物が登場することになったのだろうか。
「本作では史実をなぞりながらも、微妙に時系列などを入れ替える創作要素も取り入れています。この日はスズ子と同時期に活躍したブルースの女王こと茨田りつ子(菊地凛子)が、国防婦人会から派手な衣装を咎められると『これは私の戦闘服です』と反論。このセリフはりつ子のモデルである淡谷のり子が実際に口にした言葉とされていますが、婦人会ではなく軍部を相手に発したのだそうです」(テレビ誌ライター)
スズ子自身に関しても、丸の内警察署から3センチのつけまつげを外すように指示される場面があった。作中では昭和14年の設定だが、笠置が警視庁から呼び出されて化粧について指示されたのは太平洋戦争が勃発した昭和16年以降の話だという。
梅丸楽劇団でも楽器の呼び方をトランペットといった英語名から喇叭と和名で呼ぶように指導されていた。これも本来は、昭和17年に敵性外国語の使用が禁止されたのを受けての措置だ。なぜこういった時系列の入れ替えや、小夜のような架空の人物を登場させたりするのだろうか。
「視聴者のなかには『ブギウギ』の放送がまだ全体の3分の1なのに、時代が早くも昭和14年まで進んでいることを怪しむ声もあります。というのも笠置シヅ子は昭和32年には早々と歌手を廃業しており、戦後は12年間しか活躍していないからです。一方で作中の昭和14年段階ではスズ子の梅丸少女歌劇団入団から12年が経過。この調子だとここから終戦までの6年を、2カ月かけて描かないとバランスが取れない計算となってしまいます」(前出・テレビ誌ライター)
もちろん梅丸少女歌劇団での駆け出し時代を含めた12年と、芸能界を代表するスター歌手としての12年では濃さも密度も大きく異なり、同じ回数をかけて描写するわけでもないだろう。とはいえスターになってからの描写が長すぎるのもまた、展開的に無理がありそうなものだ。
そうなると現時点の昭和14年から終戦までの6年間を、それなりの時間をかけて描く必要がありそうだ。むしろ当初から、この時期をじっくりと描き出そうというもくろみが制作側にもあったのではないだろうか。
「太平洋戦争中にはスズ子にとって人生を左右する大きなエピソードが待っています。それは第1回で描かれた赤ん坊の父親との出会いです。笠置にとって生涯唯一の男性ですから、そこはじっくりと描く必要があるでしょう。とはいえ恋物語だけで話をもたせるわけにもいかないので、弟子入りのエピソードを絡ませることで、この時期のボリュームを厚くする方策なのではないでしょうか」(前出・テレビ誌ライター)
その観点では、同居する父親・梅吉(柳葉敏郎)の出番がわりと多いことにも同じ効果がありそうだ。笠置の来歴を見ると、がんで亡くなった母親については多くの記述があるものの、大阪から上京して同居していた父親の描写はあっさりとしている。そのぶん創作要素を追加する余地があり、弟子の小夜との絡みも期待できそうだ。
戦争に翻弄されるスズ子の歌手生活はどうなっていくのか。小夜がもたらすであろうドタバタで、暗くなりがちな戦時中の描写が少しでも明るくなることに期待する視聴者も少なくないことだろう。