感動的な展開の裏には、制作側の冷徹な計算が見え隠れしていたようだ。
12月8日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第50回では、ヒロイン・スズ子(趣里)の父親・梅吉(柳葉敏郎)が、故郷の香川に戻ることを決意。あえて軽快なBGMが流れる中で、父娘が別れるという感動的な場面が描かれた。
梅吉は、スズ子が亡き弟の六郎(黒崎煌代)を想って歌った「大空の弟」を聴いたことで、六郎の戦死を認めることに。これ以上、娘の居候では居続けられないと意を決して、香川に戻ることをスズ子に伝えていた。
「だらしない父親でもいなくなるのは寂しいというスズ子に、六郎は『決まっとるやろ。親子やからや!』と断言。血の繋がっていない義理の親子ながら、この場面でのやり取りは実の親子そのものでした。六郎が『お前が娘でホンマよかった』、スズ子が『わてもや。お父ちゃんがお父ちゃんで、ホンマよかった』と互いに抱きしめあう場面には、屋台のおっちゃんのみならず、多くの視聴者も涙を流していたことでしょう」(テレビ誌ライター)
スズ子と梅吉の別れはこの回のクライマックスであり、スズ子が新たなステージに歩みを進める象徴にもなっていた。そんなシーンが実は、史実とは異なる制作側の創作要素だったというのである。
大阪の風呂屋を畳んだ梅吉が上京し、スズ子の下宿に居候していたのは、スズ子のモデルである笠置シヅ子が歩んだ人生をなぞっている。父親が故郷の香川に戻ったこともまた、史実の通りだ。
だがドラマと現実で大きく異なるのは、父親が娘の元を離れた時期。というのも笠置シヅ子は自らの楽団を率いた演奏活動がある程度成功し、父親との同居生活も潤っていたのである。その後、戦局が悪化し、昭和20年5月の東京大空襲で笠置の下宿も焼失。住処を失ったことから、笠置の父親は香川に戻ったのであった。
それに対しドラマのほうはまだ昭和17年であり、3年もの時差がある。なぜこれほどにも早く、まるで厄介払いかのごとく梅吉を香川に戻したのか。そのヒントは次週予告にあるというのだ。
「次週予告では、スズ子が大学生風の若い男性と恋に落ちる様子が描かれました。笠置シヅ子は昭和18年、吉本興業の経営者一族で大学生だった吉本穎右氏と知り合い、恋に落ちています。ドラマでもスズ子が村山興業の一人息子・愛助(水上恒司)と知り合うことになり、史実をなぞっています。この恋物語を描くにあたって、梅吉の存在がどうにも邪魔になってしまうのではないでしょうか」(前出・テレビ誌ライター)
梅吉がいようがいまいが愛助との恋物語は進みそうなものだが、話の焦点をスズ子と愛助の恋愛に当てるためには、ノイズとなる要素はできるだけ減らしておきたいもの。
それに加え、空襲により住む家がなくなったという理由よりも、梅吉がスズ子の歌に感化されて帰省を決意するほうが、親子の別れをより感動的に描けるという計算もあったのかもしれない。
「史実をベースとした作品で創作要素は嫌われがちですが、この『ブギウギ』では上手く演出できています。病気で亡くなった母親のツヤ(水川あさみ)に関しても、笠置シヅ子はステージ出演を優先したため母親の死に目に会えませんでしたが、スズ子はぎりぎり間に合っていました。これにより視聴者も感情移入ができたはず。ドラマとしての完成度を高める創作要素なら、視聴者もむしろ歓迎かもしれません」(前出・テレビ誌ライター)
果たしてスズ子と愛助の恋物語にも、ドラマならではの創作要素が散りばめられるのか。視聴者としてはすんなりと感情移入できるような演出に期待したいところだろう。