どこまで創作要素を盛り込み続けるのかと、いぶかる視聴者も少なくないようだ。
12月25日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第61回では、愛助(水上恒司)の結核が再発。献身的に看病するヒロイン・スズ子(趣里)の一途な愛情にほだされたのか、村山興業の東京支社長・坂口(黒田)は、愛助とスズ子が一緒に住む家を用意していた。
この流れは史実に沿ったものだ。スズ子のモデルである笠置シヅ子は昭和20年、吉本東京支社長の林氏が東京・荻窪に用意した邸宅にて、恋人である吉本穎右氏との共同生活を始めていた。実際には戦災で焼け出された人たちも一緒に住んでおり、二人だけの愛の巣というわけではなかったが、同じ屋根の下に暮らす生活は幸せだったことだろう。
だが作中にはひとつ、史実とは大きく異なる描写があった。それは本来なら作品の本筋に影響するほどの大きな変更だというのである。
「笠置シヅ子が穎右氏と一緒に暮らすようになったのは、それぞれの下宿が空襲で焼失してしまったから。作中では二人が一緒に暮らすことが先に決まり、スズ子は慣れ親しんだ下宿の大家との別れを惜しんでいました。しかし実際にはその下宿自体がなくなっていたのです」(テレビ誌ライター)
先週の第60回では次週予告にて、空襲被害で焼失してしまった家屋を見たスズ子と小夜(富田望生)が途方に暮れる様子を映し出していた。その場面に多くの視聴者は、スズ子が焼け出されたのだと思っていたことだろう。ところが週が明けてみたら、スズ子は自発的に下宿を出ていたのである。
戦災を描くのであれば、空襲で焼け出された史実をなぞればよさそうなもの。それがなぜわざわざ、創作要素を入れこんでまで史実を曲げる必要があったのだろうか。
「どうやら本作ではエンターテイナーとしてのスズ子のみならず、愛助との交際に至るかりそめも厚めに描きたいようです。朝ドラではヒロインの恋物語も重要な要素ですが、笠置シヅ子の生涯を忠実になぞった場合、二人の出会いから別れまではわずか3年しかありません。ただ作中で交際期間を伸ばしてしまうと今後の展開に無理が生じることから、その3年間に史実以外のエピソードを盛り込むことで、時間をかけて描けるように工夫しているのではないでしょうか」(前出・テレビ誌ライター)
スズ子と愛助が一緒に暮らすようになったいきさつも、結核になった愛助を献身的に看病するスズ子を描くことにより、坂口が自発的に三鷹の家を用意したという筋書きが可能となった。こうすれば坂口を好人物に描くことができ、サブキャラに厚みを持たせることが可能だ。
これにより坂口は、愛助の母親である村山トミ(小雪)とスズ子の対立において、いい具合のクッションになるはず。どうやら今後もしばらく坂口は、重要なサブキャラとして登場し続けるのかもしれない。