このなかで一番無責任なのは誰なのか。視聴者ごとに見方が変わってくるようだ。
1月22日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第77回では、ヒロイン・スズ子(趣里)と愛助(水上恒司)の結婚で、決断を迫られる様子が描かれた。
スイングの女王として人気を博す歌手のスズ子と、大手芸能事務所・村山興業の御曹司として将来を嘱望される愛助。二人の結婚に大きな障害となっていたのは、愛助の母親で村山興業社長のトミ(小雪)による反対だ。
だがトミは、スズ子が戦中戦後にわたって愛助の身の回りを熱心に世話していたことで態度を軟化。二人の交際を黙認し、ついには結婚も認めることとなった。その条件はスズ子が歌手を辞め、愛助を支えることに専念するというものだったが…。
「当のスズ子は歌手を辞めてでも愛助と結婚したい様子。しかしもともとスズ子の大ファンだった愛助は、歌手を辞めることに猛反対です。スズ子が作曲家の羽鳥善一(草彅剛)に相談すると、羽鳥も『絶対あかんて!』と大阪弁でまくしたてながら反対。スズ子の周りにいる人たちは、トミが突き付けた条件に猛反発していたのでした」(テレビ誌ライター)
少女歌劇団を手始めに、約20年にわたって芸能界で活躍し続けてきたスズ子。いまや日本中にその名を轟かせる人気歌手となったばかりか、戦後には喜劇王・タナケン(生瀬勝久)の舞台でも人気を博するなど、ますます活躍の場を広げているスターなのである。
そんなスズ子が歌手引退を迫られているなか、その決断を試されているのは実のところ、スズ子ではないという。というのもスズ子は今回の終盤で、「愛助さんと家族になれるんやったら、辞めてもええような気ぃがしてきましたわ」と明言。彼女自身はもはや覚悟を決めているからだ。
「二人の結婚は、トミの示した条件を愛助が受け入れれば前に進むという状況。それゆえ決断を試されているのは誰あろう、愛助にほかなりません。そもそも村山興業の御曹司であり、自分の妻が果たすべき役割を理解しているはずの愛助が、スズ子には歌手を辞めなくていいと主張するのはさすがに道理が通らないというものでしょう」(前出・テレビ誌ライター)
ここで注目したいのは、愛助がスズ子に歌手を続けてもらいたがっているのは、史実に反するということだ。
スズ子のモデルである笠置シヅ子は、吉本興業の御曹司である穎右氏と交際。結婚話が進むものの、穎右氏は笠置に歌手を辞めてもらいたがっていたのである。
それが本作では愛助が真逆のことを口にしている。この演出には、二人の結婚に母親のトミが障害になっていることを際立たせるという狙いもあるだろう。それに加えて、別の意図も感じ取れるというのだ。
「スズ子が羽鳥に相談した際、羽鳥の妻・麻里(市川実和子)は『好き勝手にそのよくわからない音楽作ってられるのは一体誰のおかげ?』と羽鳥のことをたしなめていました。この言葉は実のところ、愛助に対して投げつけられたも同然。愛助が好き勝手に『歌手を辞めなくていい』とスズ子に言えるのもまた、彼が周りからさんざん持ち上げられているからでしょう」(前出・テレビ誌ライター)
スズ子に歌手を続けてほしいという愛助は一見、理解のある恋人に見える。しかしその態度もまた、周りの迷惑を一顧だにしないボンボンの発想に過ぎないのではないか。
愛助がスズ子に歌手を辞めるように言わないのは決して、制作側が愛助を好人物に描きたいからではないようだ。果たして愛助は今後、どのようにふるまっていくのか。視聴者も制作側の演出意図に注目しているのではないだろうか。