放送中の目黒蓮主演ドラマ「海のはじまり」(フジテレビ系)は、7年前に別れた恋人の水季(古川琴音)が27歳で亡くなり、告別式に出席したことから小学1年生になる海(泉谷星奈)という実子の存在が判明。第1話で夏(目黒)は海から「夏くん、海のパパでしょ?夏くんのパパ、いつ始まるの?」と言われたことから、ネット上では「これはホラー」「中絶したと思っていた相手が黙って出産していて、生まれた子どもとほぼ初対面でこのセリフ言われる夏の気持ちを考えたら、これはホラーですよね?」「元カノが亡くなり、知らない間に自分との子どもを産んでいただけでもホラーなのに、『パパ、いつ始まるの?』は最凶ホラー」などと指摘されていたが、とうとうNHK大河ドラマ「光る君へ」にも「夏くん」と同じ立場に立たされることになった人物がいる。柄本佑演じる藤原道長だ。
史実をドラマチックにアレンジした結果、7月14日放送の第27話でまひろ(吉高由里子)は道長と石山寺で偶然の再会を果たして「致した」ことから懐妊。夫の宣孝(佐々木蔵之介)は道長の子どもであることを察するも「そなたの産む子は誰の子でも、わしの子だ」と、心の広い意志を表明。21日放送の第28話でまひろは出産。宣孝が「まひろに似た賢い子に育つように」と賢子と名付け、自分の子どもとして育てる様子が描かれた。
その一方で道長は、側室・明子(瀧内公美)の家で倒れてしまい危篤状態に。しかし道長の夢に出てきたまひろからの「戻ってきて」の声で、道長は危篤状態を抜けるというシーンも描かれた。当然、生死をさまよっていた道長はまひろが自分との子どもを出産したことは知らない。平安時代と現代とでは価値観がまったく違うものの、「光る君へ」で描かれている道長は、まひろが自分の子どもを産んだと知れば、おそらく驚いた後に喜ぶのではないだろうか。道長を演じる柄本も、夏を演じる目黒も、2つ返事で惚れた女に振り回されてくれそうなところが、キャスティングの決め手になったように思う。
1983年から放送された「金曜日の妻たちへ」(TBS系)が「金妻」と呼ばれ、「不倫」がドラマのテーマやエッセンスとして重宝されるようになって早40年。「不倫」は“よくあること”となった反面、厚生労働省が発表した1人の女性が産む子どもの数の指標となる出生率は、2023年には1.20と8年連続で前年を下回る数値となっている。「出産」は「不倫」するより難しいことになったのだ。だからこそ「出産」の中でもっともハードルの高い、相手の男性に黙って出産する「黙産」がドラマで描かれ、かつての「不倫」のように視聴者から「あり得ない他人事」として「ホラー」などと言われているような気がしてならない。
そのうち「黙産」が「不倫」にとって代わってドラマで重宝される日が、「黙産」が「不倫」のように現実世界でよくあることとなる日が、やって来るように思う。
(森山いま)