もう聞くのも、口にするのも飽き飽きだが、いまだに暑い! こんな時のゆるゆる歩き旅は、涼やかな水辺がいい。オマケに滝の一つや二つもあれば最高だ。
そこで、白羽の矢を立てたのが静岡県河津町だ。川端康成の小説「伊豆の踊子」にも登場する旧天城トンネル(天城山隧道)の手前に河津七滝を巡る片道1時間ほどの遊歩道がある。
伊豆急行線河津駅から修善寺行きのバスに乗り、河津七滝遊歩道上入口バス停で下車。河津川が流れる谷側へ下ると、旅の神様・猿田彦命が巨大なヤマメを釣り上げたという猿田淵に出た。青く澄んだ水のきれいなこと。勢いよく流れ込む白い水流が水の青さをより引き立て、ひと目で涼やかな気分になった。
木段をひたすら下ると最初の釜滝に着く。落差22メートル。七滝のうちで2番目に大きい。この日は展望デッキまで滝の水しぶきが届き、外国人旅行者は大喜び。この暑さには何よりのごちそうかもしれない。
エビ滝を過ぎ、床板が階段になったユニークな吊り橋「河津踊子滝見橋」を渡る。その先に待つ蛇滝は落差3メートルほどだが、火山の溶岩が固まり、柱状に割れた柱状節理の岩肌が美しく、これはこれで味がある。
次の初景滝は人気の撮影スポットで、滝を背景にして、先の「伊豆の踊子」に登場する主人公の青年と踊り子の銅像が立つ。
この小説は過去6回も映画化され、田中絹代、美空ひばり、吉永小百合、山口百恵などが、踊り子の薫を演じている。銅像の顔をまじまじと眺めると、あの人に似ているような…。
河原の大岩に小石を投げ見事に乗れば大願が叶うという願い石に6回も失敗しつつ、カニ滝、出合滝を経て最後の大滝へ。通りからしばらく坂道を下るが、豪快に水流が落下する名瀑にその苦労を忘れた。水着を着て、滝を眺めながら日帰り入浴できる混浴の野天風呂もある。
有料のレンタル水着もあったが、帰りの上り坂で大汗をかきそう。そこで、河津七滝温泉バス停近くのホテルで湯浴みした。源泉かけ流しの温泉は肌触りが柔らかく、気持ちよい。
もう少し涼しくなったら、修善寺側から旧天城トンネルを越えてみようか。このトンネルは江戸期の天城峠(二本杉峠)に代わる峠道として1905年に開通した。全長445.5メートル。現存する石造りのトンネルでは日本最長となる。
もちろん、その時は♪天城越え~、と石川さゆりの名曲を口ずさみながら。
内田晃(うちだ・あきら):自転車での日本一周を機に旅行記者を志す。街道、古道、巡礼道、路地裏など〝歩き取材〟を得意とする。