原作は直木賞作家・辻村深月の同名ベストセラー小説を映画化した恋愛ミステリー。同じ辻村原作の「太陽の坐る場所」(14年)も元学友の本音と建前を見事に描いていた。今回もラブ・サスペンスの衣を着て、老若男女関係なく、人間の心の深奥にある「傲慢と善良」を問う問題作だ!
主演はKis-My-Ft2の藤ヶ谷太輔。映画化が決まる前から「人生で最も好きな小説。ぜひ主人公を演じたい」と公言していたそうだ。ヒロインの奈緒も「辻村作品に絶対出たかった」という。両者とも実現して何より。まずはお手並み拝見といきたい。監督は今年公開された「ブルーピリオド」の売れっ子・萩原健太郎がメガホンを執る。
順調な人生を送る架(藤ヶ谷)は、最近彼女に振られてマッチングアプリで婚活を始めた。そこで出会った控えめで気の利く真実(奈緒)と付き合い始める。しかし、架は1年経っても結婚に踏み切れない。そんな折、真実からストーカーの存在を聞かされた。彼女を守るために婚約するが、直後に真実が突然失踪。ストーカーにさらわれたのか? 架は、両親、友人、同僚を訪ね、行方を探るが─。
「アンダーカレント」(2023年)、「市子」(23年)など、近頃、伴侶や婚約者の「失踪」を描いた作品が多いが、私はこの2本をベストテンにランキングした。本作も同等の出来である。「失踪願望があるの?」と問われそうだが、私は現状に満足しており「絶対NO」と言いたい。まあ人間に絶対はないけれど(笑)。
善男善女に見えても、「傲慢と善良」が存在し、そこを人は往還している、と説かれたようで大いに得心した。桜庭ななみ、宮崎美子、前田美波里など原作のイメージに合う好助演女優陣にも注目したい。
(9月27日全国公開、配給:アスミック・エース)
秋本鉄次(あきもと・てつじ)1952年生まれ、山口県出身。映画評論家。「キネマ旬報」などで映画コラムを連載中。近著に「パツキン一筋50年」(キネマ旬報社)。