久しぶりの“廃線跡を歩く”である。目的地は東京都北区の赤羽地区。酒好きには午前中から堂々と、しかも安く飲める町として有名だろう。実は、今回の発端も赤羽の老舗居酒屋で聞いた姐さんの一言だ。
「赤羽八幡神社に行ったことある? 境内の真下にトンネルの出入口があって、新幹線が出たり入ったりするのが見られるのよ」
そう聞けば見たくなる。帰宅後、地図で調べると神社の近くから約1キロ先の赤羽自然観察公園まで続く赤羽緑道公園があった。これが、明治期から昭和中期まで使われた軍用貨物線(東京陸軍兵器補給廠専用線)の廃線跡だったのだ。
JR赤羽駅西口からイトーヨーカドーを左側に見て進み、赤羽台トンネル脇の階段を上る。現在はヌーヴェル赤羽台(UR賃貸住宅)として建て替えられたが、前身は総戸数3373戸というマンモス団地の赤羽台団地だった。
なんと! 2019年には住棟4棟が国の登録有形文化財に。オイラは隣の足立区ながら団地っ子だったので妙に誇らしかったものだ。4棟のうち3棟は塔状の住棟になっていて、各階3つの住戸が三方向に伸びている。Y字型の姿からスターハウスとも呼ばれた。
それらの住棟は現在も大切に保存され、外観のみ見学できる。周辺は「URまちとくらしのミュージアム」として整備され、昨年9月に開館したミュージアム棟では同潤会代官山アパート、蓮根団地、多摩平団地テラスハウスなどの復元住戸が無料見学(予約制)できる。
団地を抜けると赤羽自然観察公園に出た。広さは5.4ヘクタール。緑豊かな園内には湧水が流れる小川や池、稲田、茅葺き農家などが点在する。とても兵器庫があった場所とは思えない。
公園北門を出て、向かいの赤羽緑道公園に入る。遊歩道には線路の模様が描かれ、小さなトラス鉄橋や蒸気機関車の風見鶏なども見られた。クライマックスは赤羽並木通りに架かるパークブリッジ。レンガ造りのアーチ橋を思わせる外観で、欄干には車輪がデザインされていた。
いよいよ赤羽八幡神社に到着。先の姐さんの言葉どおり、台地の上に神社が立ち、足元にはトンネルが口を開けていた。伝承によれば、平安期の武将・坂上田村麻呂が八幡三神を勧請し武運長久を祈願したのが神社の起源で、勝運守護などの御神徳があるそうだ。
参拝後、境内のビュースポットで待つと、新幹線がいきなり飛び出してきた。はははっ。愉快、愉快。
内田晃(うちだ・あきら):自転車での日本一周を機に旅行記者を志す。街道、古道、巡礼道、路地裏など〝歩き取材〟を得意とする。