ペットが逃げ出してさあ大変!こんな場面は日常でもありがちだが、それが毒グモだったらシャレにもならない。本作は、凶暴化した毒グモが襲いかかるパニックホラー映画。
フランスでは過去20年間のフランス製ホラーの中で最大のヒットを記録したという。監督は、本作が長編デビュー作となるセヴァスチャン・ヴァニセック。
爬虫類やサソリ類などエキゾチックアニマル愛好家のカレブ(テオ・クリスティーヌ)は、妹のマノン(リサ・ニャルコ)と郊外の公営住宅で暮らしながら、自室で世界各地の生き物を飼っている。ある日カレブは知り合いから砂漠生まれの珍しい毒グモを入手して、一時的に靴の空き箱に閉じ込める。ところが外出中、逃げ出したクモが大増殖。アパート中に広がりパニックを巻き起こす。犠牲者が続出する中、警官隊が到着。彼らは迷わず建物を封鎖。カレブや住民は建物内に閉じ込められてしまうのだった。
低予算だが徹底してリアルさにこだわった監督は、彼が育った街の、本物の公営住宅内で撮影を敢行。移民が多く治安が悪い地区だそうだが、その住民も出演させて、不穏な街の空気を再現した。さらにリアルな恐怖を伝えるため、本物のクモ200匹を放ってパニックシーンを作り上げた。「密着共演」させられた役者たちには心から同情するが没入感はハンパない。
監督みずから書いた脚本も奥が深い。見た目だけで迷惑がられるクモを、フランス社会における移民のメタファーとした仕掛けが特にお見事。実際、クモの見た目はキモいが、害虫を食べる益虫だそうで、誤解と先入観が本作のキーワードと言えそう。怖さとは裏腹に社会派の一面も浮かび上がる作品だ。
(11月1日全国公開、配給・アンプラグド)
前田有一(まえだ・ゆういち)1972年生まれ、東京都出身。映画評論家。宅建主任者などを経て、現在の仕事に就く。著書「それが映画をダメにする」(玄光社)、「超映画批評」(http://maeda-y.com)など。