一目惚れである。埼玉県横瀬町の「横瀬まいり」(8カ寺巡拝)で授与される“美しすぎる切り絵御朱印”がそれだ。初見は旅行マスコミ向けの情報交換会で、A5版のいろ紙に細密な切り抜きが施され、すっかり魅了された。その後、日を追うごとに欲しくなり横瀬町まで来たしだいだ。
切り絵御朱印は町内にある東林寺、大慈寺、語歌堂、法長寺、卜雲寺、大忠院、西善寺、明智寺の全8種類。西武秩父線横瀬駅から8カ寺を周回すると約10キロの道のりで、ゆっくり歩いても半日で巡れる。
8カ寺のうち東林寺は隣駅の芦ヶ久保駅近くにある「横瀬町ブコーさん観光案内所」で頒布する。そこで、まずは観光案内所を訪ねた。この日は切り絵御朱印の仕掛け人である横瀬町観光協会の金子るみさんと再会でき、改めて誕生の経緯などを教えてもらった。
もともと8カ寺のうち6カ寺は秩父三十四ヵ所観音霊場の札所で巡礼者は多かったが、より多くの方に来てもらうための動機付けとして企画された。22年11月から頒布を開始した。
「切り絵は各寺の特徴などをモチーフにしています。お寺の境内や秩父地方のシンボル・武甲山などを背景に撮影されて、旅の記念にする方が多いようです」
それはおもしろい。オイラも挑戦してみよう。横瀬駅から時計回りに歩き、東林寺、大慈寺、語歌堂とつないでいく。この間は交通量の多い国道や県道を歩くのでやや退屈だが、この先は正面に武甲山を望みながら、のどかな山里を歩くので足取りも軽くなる。
県内最大級の棚田となる寺坂棚田を見て法長寺へ。この寺の切り絵御朱印は本堂の欄間彫刻「珠取り図」がモチーフになっていて、海女が夫(藤原不比等)のために命がけで、龍神から玉を取り返す場面が描かれている。荒ぶる海の様子が細かな切り抜きで表現され、躍動感があり、オイラが一目惚れした1枚だ。
卜雲寺、大忠院の先に待つ西善寺の切り絵御朱印には、境内のコミネカエデが描かれていた。実物は樹齢600年の大木で、切り絵と実物の見比べが楽しい。
最後に訪ねた明智寺の切り絵御朱印は満開の桜だ。冬だけにモチーフの桜は枝ばかりだが、切り絵を重ねると春の風景が目に浮んだ。季節を越えて華やかな風景を感じられるのも切り絵御朱印のよさだろう。
なお、切り絵御朱印には季節やイベントの限定版もある。大慈寺では12月中旬から2025年の干支にちなんだ白蛇(巳)の切り絵御朱印を頒布する。
内田晃(うちだ・あきら):自転車での日本一周を機に旅行記者を志す。街道、古道、巡礼道、路地裏など〝歩き取材〟を得意とする。