ビジネスでよく使われるようになった「ペルソナ」は、もともと、ギリシャ仮面劇で使用される「仮面」のことです。「パーソナリティー(人格)の語源」です。人は、仮面をかぶると(映画「マスク」のように)、本当に「その人格が乗り移る」のです。(写真は「憧れの坂本龍馬のメイク」)
■ペルソナをかぶれば、あこがれの人になれる
“ペルソナ”とは、ギリシャの「仮面劇」で使われている顔をすっぽりとおおってしまう“お面”のことです。ビジネスの世界では「理想の顧客像」のことを指し、実際のビジネスシミュレーションで使われていますが、もともとはギリシャ演劇の仮面です。
心理学的には、「人は、ある人格を表す“ペルソナ(仮面)”をかぶっている(“顔マネ”している)と、自然にその人格になってしまう」 ということが実証されています。映画「マスク」のように、「そのマスクをかぶれば、マスクの人格が、それをかぶった人に乗り移ってしまう」という現象ですね。実際にお面をかぶるのではなくて、仮面という“役顔”をマネしていると、「マネし細胞・マネッシーくん」(※鏡のように何でもマネする神経細胞=ミラーニューロン=のことを私はこう呼んでいます)によって、その人格の、立ち居振る舞い、ことばや考え方などが、自然にマネされて、ついには「そうなってしまう」と言われています。
■私はNHK時代、こんな経験をしました
入局してから、全国各地の放送局を転勤して歩く時代が続くのですが、転勤先のアナウンサーの上司に、私は“間違いなく似てくる”のです。アナウンスはもちろん、話し方やものの考え方、食事やお酒の好みまで、その時々の上司のアナウンサーにそっくりになるのです。「マネしよう」 と意識したわけではありません。ただただ、「いいなあ、あんなアナウンサーになりたいなあ」 とあこがれていただけです。その“思い”が、自然とその人の“お面”をかぶらせた(“顔マネ”させた)のでしょう。そして私は、あこがれている人のお面をかぶっているうちに自然に「その人」になっていったのです。
東京のアナウンス室に転勤してからは、先輩の松平(定知)アナウンサー(元NHKエグゼクティブアナウンサー、現在はフリーアナウンサー)によく似ていると言われました。松平さんとは大学も同じ、通勤ルートも同じで、ものすごくあこがれていたので、当然と言えば当然なのですが。
■みなさんにも、思い当たることがあると思うのですが、例えば、こんなこと
ご夫婦で(結婚前は違っていたのに、結婚した後は)、同じ考えやセンスをお持ちの方はよくいらっしゃいます。いわゆる似たもの夫婦ですね。お二人の表情まで似ているカップルも多く見かけます。また、あなたのバッティングフォーム、誰か、たぶんあなたの大好きな選手やチームの先輩にそっくりなのではないでしょうか。
あなたのお化粧や服装のセンスは、あなたがあこがれている人やタレントさんの誰かに似ていませんか。あこがれの人にあこがれていると、“マネッシーくん”がやってきて、その人とそっくりの自分を実現してしまうのです。
■ペルソナ・マジック
この不思議な効果を、私は“ペルソナ・マジック”と呼んでいます。冒頭でも触れましたが、「“ペルソナ”はパーソナリティーの語源」 。人は、ペルソナをかぶること(“顔マネ”すること)によって、“そのパーソナリティー”になる、つまり、「あこがれの人になることができる」 ということです。ペルソナ・マジックは、「日常生活で、ごく普通に起きている」のです。“あなたの顔”はいつも、あなたをコントロールしているのです。
ひとつだけご忠告を。「マスクをかぶる時は“いいマスク”をかぶってください」、(映画のように)悪いマスクをかぶると、本人は痛快かもしれませんが、まわりに迷惑がかかります。
次回は、「“マネ・マネ”人生」第2弾 あなたは「怪人二十面相」だ!をお送りします。
●プロフィール
なかむら・かつひろ1951年山口県岩国市生まれ。早稲田大学卒業後にNHK入局。「サンデースポーツ」「歴史誕生」「報道」「オリンピック」等のキャスターを務め、1996年から「ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)ほか、テレビ東京などでワイドショーを担当。日本作家クラブ会員。著書に「生き方はスポーツマインド」(角川書店)、「山田久志 優しさの配球、強さの制球」(海拓舎)、「逆境をチャンスにする発想と技術」(プレジデント社)、「言葉力による逆発想のススメ」(大学研究双書)などがある。講演 「“顔”とアナウンサー」「アナウンサーのストップ・ウォッチ“歴史館”」「ウィンウィン“説得術”」