本作は、放射能汚染と台風が直撃する香港を描いたディザスターパニック映画。香港映画の超大作にふさわしい、突き抜けたアクションが見どころだ。
監督は「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件」(2025年)の撮影監督を務めたアンソニー・プン。「インファナル・アフェア」(02年)シリーズのアンディ・ラウと中国の俳優・バイ・ユーら人気俳優による共演も話題である。
香港返還前の1996年。政治家のファン(ラウ)は、経済優先の決断が裏目に出て最愛の妻を失い、政界を引退する。それから10年、ファンは環境汚染の専門家に転身。ある日、山中にあるリサイクル工場で火災が発生し、高濃度セシウムが漏洩した。
政府の臨時行政長官(カレン・モク)は、ファンを呼び戻し、消防の精鋭部隊と緊急対応チームを招集し、放射能汚染に対処する。しかし、巨大な熱帯低気圧が香港上空に接近していた。台風が到達すれば、香港全土の壊滅的被害は免れない。タイムリミットは90分。ファンらは決死の作戦に挑む─。
本作が他のパニック映画と一線を画するのは、実録映画のような迫力の山火事のシーンだ。山火事で燃え広がる炎で、香港の街が崩壊していく空撮映像は、リアル感が満載で恐怖感が半端ない。
8年ぶりにスクリーンに復帰した「少林サッカー」(01年)のカレン・モクが演じる臨時長官のキャラが際立っている。冷酷な決断を迫られて苦悩する姿は、かつてのコメディエンヌのイメージを覆すほどで、もはや演技とは思えないぐらい、のめり込んでしまう。住民の命を優先しようとするファンと対立しながらも、やがて共闘してゆく2人の男に魅了されることは請け合いだ。
(5月2日=金=よりシネマート新宿ほか全国公開、配給 AMGエンタテインメント)
前田有一(まえだ・ゆういち)1972年生まれ、東京都出身。映画評論家。宅建主任者などを経て、現在の仕事に就く。著書「それが映画をダメにする」(玄光社)、「超映画批評」(http://maeda-y.com)など