最近“性的なサービスを生業とする女性”を扱った作品が脚光を浴びている。例えば、NHK大河ドラマ「べらぼう」で小芝風花が伝説の花魁を演じているし、今年のオスカーで作品賞、主演女優賞など5部門を受賞した「ANORA アノーラ」のヒロインの職業はステージで“フル脱ぎ”になる踊り子だ。
本作もヒロインが大人のサービスのある浴場で働く女性。いわゆる“泡姫”が認知症の祖母を介護をするヒューマンストーリーである。新進女優・中尾有伽とベテラン・研ナオコが魅力的で、新人監督・岡﨑育之介の腕前にも注目したい。
特殊浴場で泡姫として働く加那(中尾有伽)は、母から「1週間だけ、おばあちゃんの介護をして」と電話で頼まれた。仕事のことを親に秘密にしていた加那は、翌日から、浴場と祖母宅を行き来する、ダブルワークの日々が始まる。認知症が進み、名前すら覚えていない祖母・紀江(研ナオコ)の介護に加那は奮闘する。やがて、仕事のことも打ち明け、2人にとってかけがえのない時間が過ぎてゆく─。
「人の体を洗う点では、“夜の泡姫”も介護も同じ」という意外な視点で描かれている点に「なるほど!」と目からウロコが落ちる思いにさせられた。
ストーリーだけでなくキャスト陣も注目すべきだ。赤髪のギャルだが、気はいい泡姫を演じた中尾有伽に好感度大。一緒に髪を染めて、愛嬌たっぷりな祖母役の研ナオコは「助演賞」にふさわしい。2人の掛け合いが絶妙で、介護の心得が自然と伝わり、認知症の身内を持つ方、持たぬ方問わずに、得心をするはずだ。
浴場の店長や家政婦など脇のキャラにも気を配った岡﨑演出は、新人離れした巧みさを見せ、今年の賞レースに推したいほど“ホンネ”の逸品だ!
(5月2日=金=より新宿ピカデリー/シネスイッチ銀座 他 全国公開、配給 NAKACHIKA PICTURES)
秋本鉄次(あきもと・てつじ)1952年生まれ、山口県出身。映画評論家。「キネマ旬報」などで映画コラムを連載中。近著に「パツキン一筋50年」(キネマ旬報社)。