「ゴースト/ニューヨークの幻」(1990年)などで活躍した人気女優・デミ・ムーアが、美と若さに執着する元人気女優に扮し、上質なホラーエンターテインメントに仕上がっている。ホラー嫌いで知られる米アカデミー作品賞に、ノミネートを果たした今年最大の話題作でもある。
50歳の元人気女優のエリザベス(デミ・ムーア)は、プロデューサーのハーヴェイ(デニス・クエイド)から人気番組の降板を告げられた。失意のどん底の彼女は、若さと美しさが得られる再生医療「サブスタンス」に手を出してしまう。注射をすると、エリザベスの背中がパックリ割れ、ドロドロの肉体から若き分身スー(マーガレット・クアリー)が現れる。若さと美貌、そしてエリザベスのこれまでの経験を持つスーは、一躍スター女優の座に就く。2人は一つの若き肉体を交互に共有する契約だったが、スーはエリザベスに肉体を返すのを嫌がり、やがてルールを破り始めた─。
本作で、デミは50歳女優のリアルを演じるため、実年齢61歳の肉体を惜しみなくさらし、セルライトやシワ、白髪交じりのアンダーヘアまで生々しくアップで見せる。一方、分身役のクアリーは、元ダンサーらしく、若くて完璧な、衣服を脱ぎ去った姿を披露する。特にラスト20分間の2人の怒濤のシーンは「そこまでやるか」と地獄絵図だ。
しかし、そこは、単なるスプラッター映画ではないのでご安心を! 強烈な残酷描写もルッキズムやエイジズムへの批判を根底にした、コラリー・ファルジャ監督の強烈なメッセージなのだ。悪徳プロデューサーも、ミートゥー運動の火種となったハーヴェイ・ワインスタインをモデルにしている。そう、実はこの映画は骨太な社会派映画でもあるのだ。
(5月16日=金=より全国公開、配給 ギャガ)
前田有一(まえだ・ゆういち)1972年生まれ、東京都出身。映画評論家。宅建主任者などを経て、現在の仕事に就く。著書「それが映画をダメにする」(玄光社)、「超映画批評」(http://maeda-y.com)など。