細田佳央太演じる原豪が戦死したことを伝える報せが朝田家に届いた5月20日放送のNHK朝ドラ「あんぱん」第37話。訃報を届けてくれた男性に釜次(吉田鋼太郎)は「ご苦労さまでございました」と感情を殺してねぎらいの言葉をかけて見送ってから「豪よ~~~~!」と絶叫し、そして慟哭した。舞台で鍛えた吉田でなければ表現できなかった大声の切なる嘆きは、視聴者を悲しませると同時に、テレビドラマを見ていたはずが、突然シェイクスピアの舞台が始まったかのような大きな泣き声に、ビクッとするほど驚いた人も少なくなかったようだ。
その場でよつんばいになって悲嘆にくれる釜次の上からのぞき込むように訃報を目にした蘭子(河合優実)は、重すぎる事実を受け止めきれず、悲しみと動揺が飽和状態になってしまい、何も映っていないかのような目で悲嘆を表現。吉田演じる釜次が「動」の演技、河合演じる蘭子が「静」の演技を見せ、2人のコントラストが豪(細田)の戦死がもたらした朝田家の悲しみをより浮き彫りにしてくれた。
21日放送の第38話では、豪の葬式で「英霊」「立派」などと称える人々を見ていた蘭子はスッとその場を離れると裏に回り、そんな蘭子を心配して追いかけてきた、のぶ(今田美桜)に「どこが立派ながで。みんなが立派だと言うたびに。何べんも何べんも言うたびに、うちは悔しくてたまらん」と本音を吐露。のぶが「立派やと言いちゃりなさい」「誰よりも蘭子が誇りに思っちゃらんと」と語りかけるが、蘭子は“自分の教え子にも同じことが起きてもそう思えるのか”と心の叫びをぶつけ、のぶは「そうや」と返答。のぶのこの答えをきっかけに「戦死したら、みんなで立派やと言いましょうって?そんなの嘘っぱちや!みんな嘘っぱちや!」とこれまで抑えていた感情を露わにした蘭子は、前日に見せた「静」の悲しみとは正反対の「動」の悲しみを見せ、視聴者の涙を誘った。
22日放送の第39話では、墓石に「原豪」と掘ろうとした釜次がノミ(墓石を掘る道具)を振り下ろすも「俺には彫れん…」と癒えない悲しみを静かに表した。
早すぎる豪の戦死を3日に渡り「動」と「静」の演技で魅了してくれた吉田と河合。この悲しみを朝田家の人々はどう乗り越えていくのだろうか。
(森山いま)