元NHKアナ・中村克洋「人生を動かす“顔”パワー」講座/顔のサイエンス②“超能力”は「表情筋」から生まれる!
人類は、生命誕生から40億年という驚異的にながい時間の進化を、“顔と脳”にぎっしりと凝縮しています。その過程で、“顔と脳”は、不可分に結びついていきました。“ヒトの顔”は、巨大な“脳”と一体化することで“新しい能力”を生み出しました。それは、ヒト以外の動物には「及びもつかない超能力」です。
最初に「このシリーズで言う“顔”とは、その“造作”ではなく“表情”のことである」 と定義しておきたいと思います。地球には、“顔を持たない生物”もたくさんいますが、“顔のある生物”の中でもヒトの顔は、すごくユニークな存在なのです。どこが、どんなにユニークなのか?いくつか見ていきましょう。
長い進化の歴史の中で、生物は様々な“超能力”を獲得してきました。コウモリは超音波を使って暗闇でも平気で飛び、獲物を捕まえます。サケは、はるか彼方の外洋から地磁気と嗅覚を利用して、正確に生まれ故郷の川に帰ってきます。イルカは口先のセンサーを使って砂の中の獲物を見つけます。世界の海や大陸を越えて移動する渡り鳥の地球規模の方向感覚には目を見張るものがあります。ヒトの数万倍といわれる犬の嗅覚、ワシやタカ、フクロウなどの鳥のもつ驚異的な視力や聴力。こんな超能力に、我々は驚くばかりです。
では、ヒトはいったい何を獲得してきたのでしょうか?私たちは動物たちの超能力に、驚かされているだけなのでしょうか? もちろん違います。「人間ほどすばらしい超能力を持った生物はいない」 のです。なぜなら私たちには「進化した“顔”」と「巨大化した“脳”がある」からです。
顔には、見る、聞く、におう、味わう、感じる、などの五感のセンサーが集中。それだけでもすごいのですが、ヒトの顔には、もっとすごい特徴があります。それが“表情筋”。文字通り、顔の“表情を作る筋肉”です。ヒト以外のほとんどの生物にはありません。だから無表情です。サカナは、何を考えているのか、顔を見てもわかりません。哺乳類には少しだけあります。ところが、ヒトは、この表情筋が異常に発達。おでこの前頭筋や、目の周りの眼輪筋、頬の頬筋、口の周りの口輪筋など、その数30種類ほど。広く、細やかに、複雑に入り組んで“顔全体”を覆っています。
しかもこの表情筋は、ヒトの筋肉の中でも例外的な存在なのです。普通、筋肉は骨と(別の)骨を、関節を挟んでつないでいます。そして筋肉を縮めることによって、関節を曲げ伸ばしして体を動かしています。ところが、表情筋は、筋肉の一方は骨に付着しているのですが、もう一方は“皮膚”に付着しているのです。だから、表情筋を動かせば“顔の皮膚”が動き、様々な表情を作り出すことができるのです。
私たちは、たくさんの表情筋を自由自在に組み合わせ、動かすことで、あらゆる感情の表現が“顔でできる”のです。そして、その能力を活用して、ヒトは、独特の“表情”コミュニケーションを行っています。
ヒト以外の生物ではこうはいきません。たとえばイヌ。「うれし泣きしているイヌ」 って、見たことありますか?「せせら笑いするネコ」「ドヤ顔のネズミ」っていない。童話の世界にはいると思いますが…。それぞれ、喜怒哀楽の感情はあるけれども、表情筋が少ないため、顔では、複雑な気持ちの表現が、うまくできないのです。
では、チンパンジーはどうでしょうか?これは次回。
●プロフィール
なかむら・かつひろ1951年山口県岩国市生まれ。早稲田大学卒業後にNHK入局。「サンデースポーツ」「歴史誕生」「報道」「オリンピック」等のキャスターを務め、1996年から「ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)ほか、テレビ東京などでワイドショーを担当。日本作家クラブ会員。著書に「生き方はスポーツマインド」(角川書店)、「山田久志 優しさの配球、強さの制球」(海拓舎)、「逆境をチャンスにする発想と技術」(プレジデント社)、「言葉力による逆発想のススメ」(大学研究双書)などがある。講演 「“顔”とアナウンサー」「アナウンサーのストップ・ウォッチ“歴史館”」「ウィンウィン“説得術”」
