30代くらいの仕事を持った女性から、よく個人年金保険はどうなのかという相談を受ける。独身で、比較的お金を持っていて、真面目な性格の女性が、個人年金保険に近づきやすいという印象を持つ。バリバリ働いているキャリア・ウーマン、タレントやアナウンサー、それにホステスさん(私が行くのは真面目なお店ですよ)、などだ。皆、公的年金はアテにできないと考えていて、老後を不安に思っている。
個人年金保険とは、老後の生活に備える保険で、受け取り方は、一時金もあれば、年金払いのものもあるし、生涯受け取ることが出来る終身年金タイプのものもある。昨今の低金利では日本円での商品設計が難しく、豪ドルなどの外貨建ての商品が売られることが多い。
先日、あるテレビ番組の控え室で、女性タレントのAさんと次のようなやりとりがあった。耳に刺さるような高音で話す、たぶん読者もご存知の女性だ。
A「山崎さん、私、先日、個人年金保険に入りました」
山「そう。それは、残念なことをしましたね」
A「えーーっ! 個人年金保険ってダメなんですか?」
山「はい。100%ダメです」
A「どうしてダメなんですか? 私、考えたんです。私の職業って、不安定じゃないですか。仕事があって稼ぎのある今のうちに、少しでも老後に備えておく方がいいって。それに、満期まで持てば、元本は保証されているって銀行の窓口の人が言っていましたよ」
山「老後の備えはいい心がけだけど、保険は止めたほうがいい。元本保証だって言うけど、それ、通貨が豪ドルとかじゃないの?」
A「よくわかりますね。豪ドルです。豪ドルは利回りもいいし、それに、オーストラリアって、資源もあって、大丈夫な国なんでしょう」
山「オーストラリアはいい国かも知れないけど、豪ドルは変動の激しい通貨だから、将来円に戻した時に払った額がどれだけ返ってくるかはわからない。何よりも、個人年金保険は売り手側の儲けが分厚い。払込金額のざっと15%くらい抜かれていて、これを保険会社と販売会社が概ね半々で山分けしている。もし、オーストラリアを信用するなら、オーストラリアの国債を直接買ったほうが、将来、豪ドルが上がろうが下がろうが確実に結果がいい。つまり、金融論的には100%ダメっていうことです。ペナルティがあって損に見えても、即刻解約が正解だけど、精神的には難しいかも知れませんね」
A「うわぁー。私、無理かもぉ。どーしよう‥‥」
(この後しばらく、本番の打ち合わせに入ることが出来ませんでした)
個人年金保険がダメなのは、何と言っても保険会社が取る実質的な手数料が高すぎるからだ。この点は、近年、金融庁も問題にしている。しかし、販売時に入る手数料は投資信託よりも大きいことが多いので、金融機関の窓口で熱心に売られているのが現状だ。
淑女の皆様、「個人年金保険」という耳障りのいい名前に惹かれて、損な商品と付き合わないようご忠告申し上げます!
(経済評論家・山崎元)