淑女読者は独身であっても、あるいはパートナーのいる方であっても、老後の経済生活に不安を抱えていらっしゃる方が多いのではないか。今回は老後貧乏に陥らないための3つの心得を伝授することにしよう。
第一の心得は、月並みだが、「自分の場合の」老後のために必要な貯蓄額を計算してみることだ。
世間には、引退時点で3000万円といった「平均に基づく」、「金融業界に都合いい数字」が出回っているが、この数字は信用しないほうがいい。数字の根拠は生命保険関係者が行った「豊かな老後を送るのにいくら必要だと思いますか?」といったアンケート質問に対する答え(夫婦2人で月額35万円くらいの数字が多い)であり、端的に言って、生命保険商品をたくさん買わせるように、大きめの数字になっている。世間の平均ではなく、「自分の場合の」数字を計算しよう。
老後は、現役時代の生活費の概ね7割くらいで暮らせる場合が多い。「今後の現役時代に平均いくらで暮らし、いくら貯蓄すると、年金と合わせて老後に現役時代の生活費の7割で暮らせるか?」という数値をざっくり計算してみよう。数値は人によって異なるが、現在、30代、40代の会社員であれば、「手取り収入の2割くらい」貯金しなければならない人が多い。もちろん、貯まったお金は、イデコ(個人型確定拠出年金)やインデックス・ファンドなどで一部を運用していい。
第二の心得は、長く働く準備をせよ、ということだ。貯金の取り崩しは予想外の長生きに弱いし、保険(個人年金保険)などは保険会社の儲けがバカでかくて損だから絶対に止めるべきだ。まして、不足額を運用の利益で埋めようなどと、あやふやなものに頼ってはいけない。しかし、人間の寿命は着々と伸びている。
この現代の人生問題に対応する最強の対抗策は、高齢になっても長く働くことだ。60歳あるいは65歳といった、会社が用意する就労機会では不十分だ。
そして、高齢になってから働く能力と働き口の両方を確保するためには、長い準備期間が必要だ。遅くとも45歳からセカンド・キャリアについて、考え、必要な準備をするべきだ。勉強が必要な場合もあるし、副業が有効な場合もある。
さて、第三の心得は、たぶん、これが最も大事な心得だが、金融機関をむやみやたらに信用するのではなく、自分でも考えるということだ。
例えば、退職金について銀行などで相談したとしても、何も考えずに手放しで言いなりになってはならない。金融マンが勧める、投資信託、保険、アパート経営のようなもののすべてが正しいとは限らない。しばしば、大きな手数料を払いつつ、過大なリスクを負う。
老後に急に貧乏になる原因の一つに、運用の大損があるが、金融マンを頼ったことが失敗の原因になることが多い。自分は人を見る目があるなどと思ってはならない。運用を「人」で判断してはいけない。金融マンや、金融マンと親しいFP(ファイナンシャル・プランナー)については、1人に相談してすべてを決めるのではなく、同じ内容を他の金融マンに相談してみるなど、賢い判断をして素敵なシニア・ライフを送って欲しい。
(経済評論家・山崎元)