ジャニーズ事務所の55年にわたる歴史の中で金字塔として今も輝いているのが、学園ドラマ「3年B組金八先生」(TBS系)だ。80年代アイドルで、ジャニーズ黄金期の象徴でもあるたのきんトリオ(田原俊彦、野村義男、近藤真彦)が産声をあげたのも、このドラマ。第1シーズンが放映された79年から最終話となった11年まで、学園ドラマの代表として人気を博した。
ここをステップにして、主演俳優となったジャニーズアイドルは数知れず。元SMAPの森且行やV6・長野博をはじめ、風間俊介、KAT-TUN・亀梨和也、NEWS・増田貴久、加藤シゲアキ(当時は成亮)、Hey!Say!JUMP・薮宏太、八乙女光などは、武田鉄矢演じる金八先生の教え子だ。その中でも群を抜いた難役は、八乙女だろう。
「2004年から05年にかけて放映された第7シーズンには、濱田岳や黒川智花も出演していました。未来のスターが多いなか、強烈なインパクトを与えたのが八乙女でした。母親に虐待されて、ドラッグにおぼれる中学生を、まさに体当たりで演じました。クライマックスシーンは、ドラッグが切れて、幻覚が見え、教室内で大暴れするひとり立ち回り。椅子を振り回し、金八先生の制止を振りきり、床にこぼれた水を口で吸い取る演技は鬼気迫るものがありました」(テレビ誌ライター)
緊迫感に包まれたこのシーンはカメラ6台を駆使して、舞台仕様のパラ回しで本番一発で撮られたという。
出演する生徒たちには基本、いくつかの制約があった。まずスタジオに入ったら、携帯電話を没収。スタッフに預けた。控室は、全員がひとつの大部屋だ。ところが、先のシーン撮影日の八乙女は違った。
「ドラマは2クールなので、撮影期間はおよそ半年におよびます。八乙女はこのたった1日だけ、個人の控室が与えられたのです。リハーサルで大まかな位置の確認はあったものの、その後のカメリハなどは代替が務め、その間、八乙女さんは控室に戻って気持ちを作りました。そして、本番はノンストップ20分の長回しでした」(前出・テレビ誌ライター)
当時の八乙女は14歳。事前に実際にドラッグにおぼれ、更正した人から取材をしてから、撮影に臨んだという。
そんな八乙女を武田は、少し“えこひいき”したという。彼が体調を壊してしまい、撮影スタジオの隣の楽屋で寝込んでいたとき、武田が楽屋を訪れ「何が食べたい?」と聞いた。まだ中学生だった八乙女は意識がままならない状態で、「……メロン」と答えたとか。武田は即、高そうなメロンを差し入れてたとされている。
本当の学校以上の学びがあり、先生や生徒との絆を育んだ金八時代。八乙女にとって武田は、先輩俳優であり、恩師でもあるのだ。
(北村ともこ)