聴力の衰えは、早ければ40代から始まるそうです。しかし、急に全く聞こえなくなるわけではないため、実感しにくく、高齢になってからの問題という思い込みもあり、チェックする機会がほとんどないのではないでしょうか。
■聞こえの衰えが認知症リスクを高める!?
2019年9月に行われた“聞こえ”に関する意識調査によると、GNヒアリングジャパン社がデンマーク本社と共同で開発・公開している無料オンラインツール『きこえのチェック』を受けた結果、40~50代の約1割弱が「聞こえの衰えが始まっている」と実感したといいます。
また、同調査で「この先老化が進んでほしくない部位」を尋ねた結果、肌や眼を抑えて「脳」がトップに。「聞こえにくくなると、認知症のリスクが上がることを知っていますか」という問いに対しては、「知らない」方が約7割にのぼったとか。脳の老化に対する危機感はあるものの、聞こえの衰えが認知症のリスクを高めることはあまり知られていないようです。
難聴に詳しい済生会宇都宮病院耳鼻咽喉科主任診療科長の新田清一さんは、「年を取ると、誰でも耳が遠くなります。これを加齢による難聴、加齢性難聴と言います。しかし、それを『年だから仕方がない』とそのまま放置していると、思わぬリスクを招きます」と警鐘を鳴らします。
そして、「音を認識して情報を理解するために、私たちは脳の広い部分を使います。難聴によって脳を使わなくなると、脳の側頭葉という音の情報を司る部分も劣化していきます。すると、コミュニケーションも減り、脳の機能は次第に広く低下していくと考えられます」と指摘しています。
2017年の国際アルツハイマー病会議で、ランセット国際委員会が「認知症症例の約35%は潜在的に修正可能な9つの危険因子に起因する」と発表し、難聴がその1つに指摘されて注目されています(先天性難聴や一側性難聴はこの限りではありません)。聞こえの低下に対して早めに対策をとることが、認知症予防にもつながるようです。
■加齢による難聴の予防と対策
新田さんによると、加齢性難聴は老眼と同じように現在のところ治すことはできませんが、予防としては主に2つが挙げられるといいます。
1.騒音環境を避ける
大きな音を長く聞くことは、蝸牛細胞が疲れて聴力の機能低下につながります。例えば、ライブなど大きな音がする場所に長時間いる、イヤホンの音量を上げて音源を聞くなどを避けることは、すぐに取り組める対策です。
2.悪化要因といわれる動脈硬化を防ぐ
食生活や運動などの生活習慣を整えるなどして、動脈硬化の予防を心がけることも大切です。
また、新田さんは「耳垢がたまると耳掃除を必要以上に念入りにするのは間違い。耳の中の皮膚を傷つけてしまい、炎症を起こして耳のトラブルの原因になることもあります。そして、聞こえの衰えに気付くためにも、1年に1回は聞こえをチェックするとよいでしょう」とアドバイスします。
もちろん、こうした予防は大切ですが、加齢による難聴の進行は止められないそう。長く生きていれば誰もがなるものですので、新田さんは「難聴になったら、放置せず補聴器を使用することが大切です。補聴器を正しく装用すれば、脳の劣化を防ぎ、認知症予防にもつながります」と語ります。いつまでもコミュニケーションを楽しめるよう、また認知症のリスクを下げるためにも、まずは聞こえの状態チェックを始めてみませんか。
(美容・健康ライター Nao Kiyota)