実はそう書くのか! 驚いた視聴者が続出していたようだ。
再放送も好評なNHK連続テレビ小説「あまちゃん」では、女子高生の天野アキ(能年玲奈)が母親の故郷である北三陸市に移住。高2の夏休み明けから地元の高校に転校する場面があった。
4月17日放送の第13回では、アキが自分の名前を黒板に書くシーンが。すると彼女が板書した「黒川」という苗字に担任は驚いていた。彼女の父親が黒川であることはすでに示されていたが、アキは「お母さん『天野』って言ってました?」と担任に訊ねていたのである。
その姿に視聴者は、母親の春子(小泉今日子)は夫との離婚がまだ成立していないものの、心の中ではすでに離婚済みであり、娘のアキもそれを受け入れていることに気づいたことだろう。
だが苗字の件よりも、視聴者を驚かせていたことがあったという。それはアキが自分の名前を「天野秋」と書いたことだった。
「視聴者からは《アキじゃなくて秋なの?》《これが本名だったのか!》と驚きの声が続出。なにしろ番組のクレジットにもしっかりと『天野アキ 能年玲奈』と表記されていますからね。字幕でも彼女の名前は常に『アキ』と表示されており、まさか漢字表記があったのかと驚くのも無理はありません」(テレビ誌ライター)
そんな天野家では祖母が夏(宮本信子)、母が春子であり、娘にも季節にちなんだ名前を受け継がせた形だ。だが実際には「アキ」ではなく「秋」と名付けていたわけであり、春子が娘を呼ぶときにも彼女のなかでは「秋!」と呼んでいたのだろう。
それなのになぜ、作中では「アキ」表記を徹底しているのか。彼女自身は自己紹介で「秋」と板書していたほか、今後の回ではテストの解答用紙に「天野秋」と記入する場面もある。つまり作中のアキ自身は自分のことを「秋」だと認識しているのである。
「その秘密は、脚本を手掛けたクドカンこと宮藤官九郎にあります。彼の作品では主要人物の名前をひらがなやカタカナに開いているケースが多いのです。この『あまちゃん』でも北三陸で親友になったユイ(橋本愛)は『結衣』が本名ですし、兄のヒロシ(小池徹平)も『洋』が正解。しかし作中では徹底してカナ表記にこだわっており、漢字表記が出てくるのは契約書にサインするといった場面に限定されています。ともあれクドカン自身はあくまで、カナ表記を貫き通したいようですね」(前出・テレビ誌ライター)
クドカン作品を見渡すと、「あまちゃん」の翌年に脚本を担当したドラマ「ごめんね青春!」(TBS系)では、主人公こそ平助だったものの、ヒロインは「りさ」。主人公の親友はサトシで、ほかにも生徒役で「ゆずる」「いずみ」「あまり」などが登場していた。
同様に2016年のドラマ「ゆとりですがなにか」(日本テレビ系)でも、「まりぶ」や「ひろむ」「ゆとり」といったひらがなの名前が続出していたのである。
「劇団出身だからなのか、クドカン作品ではキャストの名前にこだわりを感じさせるケースが見られます。漢数字が多用されていたり、歴史上の人物で統一していたりと何らかのテーマを持たせていることが多く、それこそ『あまちゃん』では天野家の名前が春・夏・秋になっていたり、北三陸の人々は地元の地名が元ネタだったりします。一方で演劇では観客が覚えやすいよう登場人物にカナ表記の名前を付けることも多く、そういった流儀も影響しているのかもしれません」(前出・テレビ誌ライター)
今後、アキは東京に戻ってアイドルグループに加入するが、そのメンバーも多くはひらがなかカタカナの名前となっている。むしろ漢字表記のメンバーはなぜ漢字なのか、その理由を考えてみるのも面白いのでは?