6月19日に放送されたNHK朝ドラ「らんまん」第56話で、主人公・槙野万太郎(神木隆之介)とヒロイン・西村寿恵子(浜辺美波)が、結婚の決意を固めるシーンが描かれた。
舞踏練習会発足式のための純白のドレス姿のまま、万太郎の住む十徳長屋を訪れた寿恵子は、熱い抱擁を交わした後、「何してるんですか?人のことさんざんほったらかして、今まで何してたんですか!」と万太郎を責める。
長屋の自室に寿恵子を招き入れる万太郎だが、足の踏み場もなく散らかっている部屋を見て、寿恵子は呆然としてしまう。
「釣書(結婚のため、相手方と取り交わす身上書)はお受け取りいただけましたろうか?」という竹雄(志尊淳)の問いに「頂戴いたしました」と答えた寿恵子は「ですが、私わかっていませんでした。ちっともわかっていなかったんです」と言葉をつないだのだ。
「万太郎は、雑誌を作るために石版印刷を学んでいたことを説明し、できあがった植物学会誌を寿恵子に見せます。そして寿恵子は、これが万太郎の『日本のすべての植物を明らかにして図鑑を作る』という夢の、ほんの序の口であることを知るんです。万太郎は、その仕事が途方もなく手間暇がかかること、それでもこれは植物を愛する自分の仕事だと言い切り、莫大な金がかかること、寿恵子に苦労をかけることもぶっちゃけます。そして、だからこそ寿恵子が必要なのだと切々と語るのです」(テレビ誌ライター)
万太郎は「わしと生きてください」と渾身のプロポーズ。ところが、ここで思いも寄らぬ方向から横やりが入ったのだ。
隣の部屋で様子をうかがっていた、小説家志望の長屋の住人・堀井丈之助(山脇辰哉)が、「それって万ちゃんの都合だよね。お寿恵ちゃん、よーく考えた方がいいって。万ちゃん、自分の都合のためについてきてくれって言ってるよ」とKYなひと言を放ったのだ。
寿恵子は「確かに槙野さんのご都合です」と丈之助の言葉に同意すると、「だから、私も自分で決めます」とタンカを切り、冒険をしてみたかったこと、万太郎と暮らすことは大変そうで、生きてるだけで毎日が大冒険だろうと語り、万太郎とともに大冒険を始める決意を明かしたのだ。
そして、寿恵子は「図鑑を必ず完成させてください」と万太郎に促すと、「馬琴先生の『八犬伝』は全98巻106冊です」と、唐突に自身が愛読する滝沢馬琴作の“伝奇小説の古典”、「南総里見八犬伝」を持ち出し、万太郎や竹雄をキョトンとさせてしまう。
寿恵子の“八犬伝愛”は止まらない。馬琴が八犬伝執筆途中で視力を失い最後は口伝で物語を完結させたことを説明し、「だからこそ『八犬伝』は傑作なんです」と持論を展開。
するとここで、再び丈之助が「馬琴なんて古臭い」「これからどんどん新しい作家が出てくる。馬琴を葬り去るために」と口を挟むが、寿恵子は「それでも消えません。作者が亡くなったとしても、完結した物語は消えないんです。100年たっても消えやしない」と断言したのだ。
「完結した物語は生き続ける、でも完結しなきゃダメなんです」「日本中すべての草花が載った図鑑。そんなものができたなら見てみたい。その図鑑は100年経っても色あせない」と自身の考えを明かした寿恵子は、「必ずやり遂げてください」と万太郎を激励するのだった。
「物語の時代設定は、牧野富太郎が『植物学雑誌』を創刊した明治20(1887)年あたりでしょうか。馬琴の『南総里見八犬伝』が完結したのが天保13(1842)年ですから、45年ほど経っています。2023年の私たちが、すでに亡くなった作家の1978年頃の作品について熱く語っているイメージでしょうか。それはともかく、『八犬伝』は100年どころか180年が経過した今も、人々に愛され続け、多くの文学作品や映像作品、舞台作品として今も翻案が生まれ続けています。牧野先生の『植物図鑑も形を変えながら今でも多くの人に愛読されているんです」(文芸誌編集者)
寿恵子は万太郎の姿に、自身が敬愛する馬琴の姿を重ねたのだろうか。いずれにせよ、寿恵子の言葉通り、万太郎の“一生の仕事”は馬琴のそれと同じく、100年以上愛され続けることになるのだ。
(石見剣)