なぜ旧友のようにしっかりと学問を修めようとしないのか。視聴者はどうにも納得がいかなかったようだ。
7月6日放送のNHK連続テレビ小説「らんまん」第69回では、主人公の万太郎(神木隆之介)が暮らす十徳長屋に、旧友の佑一郎(中村蒼)が来訪。万太郎が田邊教授(要潤)から受けた仕打ちに佑一郎が憤る姿が描かれた。
田邊教授は前回の放送で万太郎に、自分専属のプラントハンターになるよう要求。万太郎が断ると、学歴のない「虫けら」だと蔑んでいた。そのエピソードを受けて佑一郎は、北海道開拓での思い出を語り始めていた。
佑一郎は札幌農学校(現・北海道大学)で土木学を学び、技師として橋梁の設計などに従事。そんな自分について「学校でなんぼ学んで図面を引いたち、実際は土を掘り起こすこと一つとったち、親方に頼らんといかん」と振り返り、「教授が言うところの『虫けら』らあがこの国を変える底力を持っちゅうが」と、田邊教授の発言を批判していた。
そんな佑一郎の発言は実のところ、植物学で名をあげたい万太郎の想いとは、ズレているというのである。
「佑一郎は土木工事に従事する現場の職人たちの重要性を強調していました。その職人たちを植物学にたとえれば、まさに田邊教授が万太郎に要求した『プラントハンター』ではないでしょうか。つまり佑一郎の言葉は田邊教授を批判しているようで、実際のところは、万太郎にプラントハンターとしてのプライドを持つべきと説いているのも同然だったのです」(週刊誌記者)
当の万太郎はプラントハンターになることを拒否。新種の植物を自分の名前で学会に発表する立場になりたいようだ。だがそれは土木工事において現場の職人たちが、佑一郎のように図面を引く立場になりたいと主張するのも同然ではないだろうか。
そんな矛盾点に加えて、佑一郎が送ってきた経歴を鑑みれば、大学を受験しなおすことを「回り道」だといって拒否する万太郎こそ、自分勝手の極みであることが明らかになってくるのである。
「佑一郎のモデルである土木工学者の廣井勇博士は、ドラマと同様に武家の子でしたが、父親が亡くなったことから11歳で上京し、叔父のもとで書生として勉強に励んでいました。決して生活が楽ではないなか工部大学(現・東京大学工学部)を目指していたものの、制度改正で授業料が必要になったことから、授業料無料で生活費ももらえる札幌農学校に進路を変更。土木学を学んだのです」(前出・週刊誌記者)
造り酒屋の息子として何不自由のない生活を送りながら、学校で学ぶことなどないと小学校を中退し、好き勝手に暮らしていた万太郎。それに対して没落武家の息子として苦学を重ね、進路を変えてまで学問を修めた佑一郎。どちらの生き方が真っ当なのかは、誰から見ても明らかではないか。
しかも第69回のラストシーンでは、実家の峰屋から1000円(現在の数百万~1000万円ほど)をもらっていたことも明かされた万太郎。自費でアメリカに留学しようとする佑一郎がその事実を知ったら、それでも万太郎の境遇を不憫だと思うだろうか。
金には困らず、美しい妻をめとり、小学校中退ながら東京大学の植物学教室に迎え入れられた万太郎。それほど恵まれた人物が、東大の教授からプラントハンターの職を提示されつつも、自らの功名心を理由に断る。そんなわがままぶりを応援させようとする脚本には、さすがに無理があり過ぎると感じる視聴者も決して少なくないことだろう。