その後、実力派女優として開花したのも納得だったことだろう。
7月13日放送のNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第88回では、アイドルグループ「アメ横女学園」の国民投票が開催。41位以下は解雇という条件のなか、GMT6のリーダーである入間しおり(松岡茉優)と、ヒロインのアキ(能年玲奈)が解雇決定になる場面が描かれた。そこでしおりが見せた表情に、視聴者が心を揺さぶられていたという。
GMT6からは徳島出身の宮下アユミ(山下リオ)が29位でイチ抜けを果たし、佐賀出身の遠藤真奈(大野いと)も26位に選出。二人は年越しライブに出演できるリザーブメンバーに決定した。さらには宮城出身の小野寺薫子(優希美青)が20位に入り、レギュラーメンバー抜擢の快挙だ。
それまで“奈落”と呼ばれる地下で黙々と練習に励んできたGMT6から、3人が日の当たる場所に飛び出すことに。アイドル業界の光が示された一方で、同時に闇もまた示されたのである。
「31~40位は補欠の“奈落”メンバーに。それでも解雇されるよりははるかにマシななか、沖縄出身の喜屋武エレン(蔵下穂波)が38位で呼ばれました。しかしエレンは浮かない顔で、まだ名前を呼ばれていないしおりに『ゴメンね』と謝罪。しおりは『なんくるないさ~』と笑顔で応え、そのやり取りに思わず涙する視聴者も少なくなかったのです」(テレビ誌ライター)
6人全員が40位以内に入ることを目標にしていたGMT6。まだ名前を呼ばれていないのはしおりとアキの二人だけだ。エレンを上階の劇場に笑顔で送り出した後、発表映像に真顔で見入るしおり。ここで彼女が見せた表情の変化には、国民投票の結果が本当にリアルタイムで発表されているかのような臨場感があふれていた。
39位に別のメンバーが呼ばれるも、表情を変えずに画面を凝視。その表情は40位で自分の名前が呼ばれなかった時にも変わらなかった。この場面で松岡はあえて表情を変えないことで、しおりの気持ちを完璧に演じきったのである。
「松岡が演じるしおりはここまで、気性の荒いリーダーとしての演技が目立っていました。今では演技派女優として知られる松岡ですが、高校を卒業したばかりの当時はまだこんな感じだったのかと思う視聴者も少なくなかったことでしょう。ところが今回、彼女の演技にはしおりの優しさや悲しみがすべて詰まっており、観る者を圧倒。エレン(蔵下)とのやり取りも完璧で、『あまちゃん』で十代~二十歳の若手女優が存分に実力を発揮していたことが分かる回となっていました」(前出・テレビ誌ライター)
この回ではアキが初のドラマ撮影に挑戦も、30回以上も撮り直しになるボンクラぶりを露呈。先輩女優の鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)から女優失格の烙印を押されていた。もちろんその女優失格ぶりも、能年が持つ演技力のたまもの。能年と松岡の演技合戦を存分に味わうことができる「神回」になっていたのではないだろうか。