なぜここで武田鉄矢の名前が出てくるのか。令和の視聴者にはピンとこなかったようだ。
7月28日に再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第101回では、芸能事務所ハートフルの社長を務める“太巻”こと荒巻太一(古田新太)が、ヒロインのアキ(能年玲奈)にクビを宣告。アイドルへの道が断たれることになった。
その理由はアキの母親である春子(有村架純)が、鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)の影武者だったから。若き日の春子は音痴なひろ美の影武者としてデビュー曲「潮騒のメモリー」をレコーディングし、60万枚の大ヒットとなっていた。その秘密を墓場まで持っていきたい太巻は、春子の娘であるアキを飼い殺しにするつもりだったのである。
太巻は社長室にアキとマネージャーの水口(松田龍平)を招き入れ、春子とひろ美の秘密について説明。そのなかで鍵付きのキャビネットから何かを取り出そうとしていた。殺気があふれ出す太巻の姿に水口は、近くにあったハンガーを手に反撃の構えだ。
すると荒巻は1本のカセットテープを取り出し、虚を突かれた水口はハンガーを構えたままでフリーズ。その姿をガラス越しに見ていた上司の河島(マギー)は「なんだ、武田鉄矢か!?」と驚いていた。
「この場面、多くの視聴者はなぜ武田鉄矢の名前が出てきたのかが分からずに混乱。水口が緑色のハンガーを手にしていたことから、武田がCMキャラを務める『緑のたぬき』になぞらえているのかといぶかる声もありました。実はこのシーン、本放送の2013年当時にも視聴者から《意味が分からない》と疑問の声が続出していたのです」(テレビ誌ライター)
結論から言うとこの場面は、武田が主役を務めていた映画シリーズ「刑事物語」のパロディだ。同映画で武田が演じる片山刑事は蟷螂拳という拳法の達人。その得意技が、ハンガーをヌンチャクのように振り回す「ハンガーヌンチャク」だったのである。
その映画「刑事物語」は1982年~1987年に全5作品が上映され、それこそ春子世代の視聴者ならハンガーヌンチャクのシーンもすぐ理解できたはず。しかしアキ世代にはピンとこないのも無理のないところだろう。
ただ、元ネタが分かったのはいいものの、今度はなぜ「あまちゃん」で武田のパロディを取り入れたのかと不思議に思った視聴者も多いことだろう。実はこちらに関してもちゃんと裏の意味が隠されていたのである。
「武田鉄矢の代表作と言えば、ドラマ『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系)の名前を挙げる人も多いことでしょう。そして今回の『あまちゃん』はまさしく第101回だったのです。101回⇒武田鉄矢⇒ハンガーヌンチャクという連想で、武田のパロディが展開されたのでした」(前出・テレビ誌ライター)
ドラマ「101回目のプロポーズ」は1991年(平成3年)7月期に放送されていた。一方でヒロインのアキは1991年11月23日生まれであり、「101回目のプロポーズ」の放送直後に生まれていたのである。
つまりアキが春子のおなかにいる時、春子は「101回目のプロポーズ」をリアルタイムで観ていたはず。どうやら「あまちゃん」には平成初期の世相が存分に反映されているようだ。