まさか紙切れ1枚で先週の伏線を回収するとは…。視聴者も感心していたことだろう。
8月7日に再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第109回では、ヒロイン・アキ(能年玲奈)の所属事務所を母親の春子(小泉今日子)が設立。その名もじぇじぇじぇにあやかったスリーJプロダクションだ。
春子はさっそく、アキの現場マネージャーを募集。しかし面接に来る候補者たちは良い大学を出ているものの、覇気のない連中ばかりで、春子のお眼鏡にかなう者はいなかった。
するとオフィス・ハートフルでアキも所属していた地元系アイドル「GMT5」のプロデュースを担当する水口(松田龍平)が、アキのマネージャーに立候補。すでに履歴書も用意しているという手際の良さだ。その履歴書が、前回の伏線を回収していたのである。
「水口は前回、若いころにバンド『バースデイ・オブ・エレファント』でベースを弾いており、ハートフル代表の太巻こと荒巻(古田新太)を紹介されたと語っていました。そのころ水口がどんな人生を送っていたのかが、今回の履歴書から読み取れたのです」(音楽ライター)
昭和51年生まれの水口は、武蔵川美術大学の出身。美大出身者らしく、大学には6年間通っていたようだ。そして平成13年(2002年)に卒業するも、ハートフルに入社したのは翌年のことであり、1年間の空白があった。
これぞ水口が、アキがアイドルとして成功することを精一杯バックアップする証拠になっているというのである。
「バンド経験者あるあるですが、プロを目指して大学を留年し、バンド活動に打ち込むのはよくあること。しかし大学の学費がかさむことから、2回留年した時点で区切りをつけ、6年で卒業したのでしょう。学生の肩書きが外れてからも1年間はバンドを続けたわけですが、そろそろ限界が見えてきたころ太巻と出会い、芸能事務所入りを決心したようです」(前出・音楽ライター)
実際のところ芸能事務所には水口のように、プロのミュージシャンを目指していたというスタッフは珍しくない。
音楽畑の経験があるからこそ芸能事務所にも馴染みやすいわけだが、一方では自分がマネージメントするタレントに、自らの夢を託している面も否定できないのである。
「その姿はアイドルを目指して上京し、鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)の影武者まで務めながら結局はデビューできなかった春子に重なるところがあります。アキに自分の夢を託しているのは春子のみならず、実は水口もそうだったわけです」(前出・音楽ライター)
なお前回、水口が言及していた「明治通りのライブハウス」とはおそらく、原宿アストロホールのことだろう。2000年(平成12年)に開館しており、水口がバンドに打ち込んでいた最後の3年間にちょうど重なっているのだ。
そのアストロホールは惜しまれながら2017年末に閉館。「あまちゃん」の本放送当時(2013年)にはその運命を知る者はいなかった。水口本人もよもやバンド時代の思い出が詰まっているライブハウスがなくなるとは思ってもいなかったに違いない。