10年前の本放送時にはきっと、40代以上の男性視聴者が爆笑していたのだろう。
9月15日に再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第143回では、ヒロインのアキ(能年玲奈)が防波堤から海に飛び込む場面が。アキを止めようとした“いっそん”こと磯野(皆川猿時)まで一緒になって飛び込んでいた。
北三陸では震災で海底に積み重なった瓦礫の撤去作業中。アキと交際中の種市先輩(福士蒼汰)も地元に帰省し、南部ダイバーの一人として瓦礫撤去に従事していた。
かつて種市と付き合っていたユイ(橋本愛)はアキに対し、いざスイッチが入ったら種市を奪うかもしれないと宣言。その混乱から海に飛び込んだアキだが、うら若き女性による恋の駆け引きにもしっかりと笑いを差し込んでいくのが、宮藤官九郎流の脚本なのだろう。
ここでいっそんは「あーまーぞーーーん!」と叫びながら海にダイブ。その手つきはサッカー日本代表のFW浅野拓磨がゴール後に見せるジャガーポーズさながらだ。この場面に「まさか通販サイトのアマゾン!?」と不思議に思った視聴者もいただろうが、実は50代以上の男性視聴者を中心に刺さる人には刺さりまくっていたのである。
「いっそんの絶叫とポーズは仮面ライダーシリーズの第4作目として1974年~1975年に放送された『仮面ライダーアマゾン』のオマージュでした。南米アマゾンで育った若者が主人公で、バイクの操縦はおろか、日本語さえまともにしゃべることができないという異色の作品。変身ポーズもそれまでの仮面ライダーとは大きく異なり、もがくように手を動かしながら『アーマーゾーン!』と叫ぶというもので、まさにいっそんはダイブした空中でその動きを繰り出していたのです」(テレビ誌ライター)
仮面ライターアマゾンの視聴者だった子供たちもいまや50代以上となっており、このシーンに爆笑するのはオジサンばかりという、ちょっと異様な状態になっていた。
もっとも脚本担当の宮藤(1970年生まれ)にとっては身近な作品であることに加え、「あまちゃん」ではアキの母・春子(小泉今日子)が1966年生まれという設定なことから、その世代に刺さる演出が続出。今回もあえて「仮面ライダーアマゾン」を取り上げたのだろう。
しかもこの第143回に「仮面ライダーアマゾン」のオマージュが登場したことには、れっきとした意味があるというのである。
「いっそん役を務める皆川には『仮面ライダー555』への出演歴があり、仮面ライダーシリーズへの親和性があります。それに加えて今回の終盤では、無頼鮨の梅頭(ピエール瀧)が北三陸駅に登場。瀧のバンド『電気グルーヴ』には、仮面ライダーアマゾンに登場する怪人をモチーフにした『Mole~モグラ獣人の告白』という楽曲があります。すなわち今回、仮面ライダーに縁のある演者が二人そろったのです」(前出・テレビ誌ライター)
北三陸のシーンにのみ登場するいっそんと、東京・上野で寿司店を営んでいる梅頭が、同じ回で邂逅するのは今回が初めて。そんな奇跡のコラボゆえに、仮面ライダー繫がりの二人にちなんだ演出を施したのだろう。唐突なギャグにもちゃんとした背景があることには、視聴者もますます感心したのではないだろうか。