実はこちらのほうが、より多く使われる流行語となっていたようだ。
9月20日に再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第147回では、女優の鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)が震災復興のチャリティリサイタルをやりたいと主張。所属事務所スリーJプロダクションの社長を務める春子(小泉今日子)が呆気に取られるシーンが描かれた。
かつて新人アイドルでもあったひろ美は、女優デビュー作の映画「潮騒のメモリー」にて、同名の主題歌を担当。しかしあまりにも音痴過ぎることから、レコーディングでは歌手志望の春子が影武者を務めていた。
25年以上経った現在ではそのわだかまりも解けた二人だったが、ひろ美の音痴ぶりは相変わらず。口の堅いボイストレーナーに半年もレッスンを受けたにも関わらず、その音程は「移ろいやすい」ままだったのである。
「ひろ美の音痴ぶりを婉曲的に表す『移ろいやすい音程』という表現は、この放送を機に世間でも使われるようになりました。実際、第147回が本放送された2013年9月18日以前には、少なくてもネット上では『移ろいやすい音程』という言葉が使われていた形跡が見つからないのです」(テレビ誌ライター)
この「あまちゃん」では岩手・三陸地方の方言で、驚いた様子を表す「じぇじぇじぇ!」という言葉が一世を風靡。2013年の「ユーキャン新語・流行語大賞」では「今でしょ!」「お・も・て・な・し」「倍返し」と共に年間大賞に選ばれていたのは広く知られる通りだ。
この「じぇじぇじぇ」も、「あまちゃん」以前には知っている人も使っている人も北三陸の一部地方を除いては存在せず、まったく新しい流行語となっていた。そんな話題の単語と同様に「移ろいやすい音程」という表現も、この放送を機に使われるようになったのである。
「こちらは完全に目新しい言葉ではないにも関わらず、2013年9月を境にパッキリと、使用頻度に天と地の差があります。ネット上では同月以前にこの単語の使用例を見つけることができず、一方で歌に関する世界では今でも使われ続けているのが驚き。本当の意味での【新語】としては、この『移ろいやすい音程』こそ大賞にふさわしい存在かもしれません」(前出・テレビ誌ライター)
ちなみにひろ美を演じた薬師丸は歌が上手く、主演映画「セーラー服と機関銃」や「探偵物語」の主題歌ではオリコン1位を獲得している。そんな薬師丸がよもや自分発信で“音痴”に関する新語を生み出していたとは。こればかりは「あまちゃん」の制作陣も予想していなかったのかもしれない。