本人が抱き続けていた無念がついに、昇華できたようだ。
9月27日に再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第153回では、鈴鹿ひろ美によるチャリティリサイタルが開催。周りがひろ美の音痴を心配するなか、彼女が歌い出した「潮騒のメモリー」は、実に完ぺきだった。
ひろ美が新人アイドルだった当時、あまりもの音痴ゆえに彼女自身が知らないところで、アイドル志望の春子(有村架純)が歌の影武者を担当。「潮騒のメモリー」はヒット曲となっていた。
そこから30年近くの時を経た今回のチャリティリサイタルでは、夫で芸能事務所社長の荒巻太一(古田新太)が再び、大人になった春子(小泉今日子)に影武者を依頼。東京から北三陸に駆け付けた春子がマイクを手に舞台袖に向けて走り出すと、そこには若き日の春子の幻影が現れたのだった。
「若き日の春子を見たのは誰だったのか。おそらくは当時の事情を知る荒巻と、春子の娘でヒロインのアキ(能年玲奈)だけだったのかもしれません。実際、舞台袖に春子がスタンバイしたとき、ひろ美の目に映っていたのは大人の春子だったのです」(テレビ誌ライター)
マイクを手に駆け出す若春子。しかしあまりもの勢いにワイヤレスマイクの電池が抜けてしまい、もはや影武者の役目を果たすことはできなくなっていた。どうなる春子、どうなるひろ美。
ところがいざひろ美が歌い出すと、その音程は完璧。ひろ美を演じる薬師丸はプロの歌手として数々のアルバムもリリースしており、歌が上手いのは当然のことだが、実のところ視聴者がひろ美(薬師丸)が実際に歌唱するのを聴くのはこれが初めてだったのである。
「正確な音程で歌うひろ美の姿を見た若春子は、笑顔で涙を流していました、その場面を最後に、若春子は姿を消すことに。どうやらひろ美の成長ぶりを見届けたことで、若春子の生き霊(?)は成仏することができたようです」(前出・テレビ誌ライター)
ひろ美の影武者を務めたことで、自分自身は歌手デビューできなかった春子。その無念さが娘のアキにも影響したのか、アキは時折、若春子の幻影を見ていた。
一方で大人になった春子はひろ美に歌の特訓を付け、音痴を克服させようとしていた。自分が影武者を務めれば解決するところを、ひろ美自身を成長させることで、影武者自体が不要になるように仕向けていたのだ。
「この『あまちゃん』ではヒロインのアキをはじめとする様々な登場人物が、困難を克服していく姿を描いています。今回、ひろ美は音痴を克服し、春子は影武者を務めていた無念を克服できました。その舞台が、震災復興のシンボルである海女カフェであることもまた、必然だったに違いありません」(前出・テレビ誌ライター)
若き日の美しい春子が成仏してしまったことを残念がる視聴者もいるかもしれない。しかし若い日は二度と戻ってこないもの。大人になった春子が現在の幸せに納得している姿こそ、視聴者が求めるものではないだろうか。