この創作要素には果たしてどんな狙いがあるだろうのか。来週の展開がまったく読めなくなったようだ。
1月19日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第76回では、ヒロインのスズ子(趣里)に「歌手引退」の命題が突き付けられることに。物語の中核をなす「スイングの女王」という設定がひっくり返りかねない事態に、驚く視聴者も多かったに違いないことだろう。
スズ子は村山興業の御曹司・愛助(水上恒司)と恋仲になり、同棲期間は2年に及んでいた。愛助の母親で村山興業社長のトミ(小雪)は二人の交際に反対していたが、戦中戦後を通して同棲を続ける姿に態度を軟化させたのか、結婚を認めることに。その条件が、スズ子に歌手を辞めてもらうことだったのである。
「この展開に一部の視聴者はビックリ。というのも史実に反する描写となっていたからです。スズ子のモデルである笠置シヅ子は吉本興業御曹司の穎右氏と同棲しており、穎右氏の母親が結婚に反対していたところは史実通り。ただ、笠置に歌手を辞めてもらいたがっていたのは、当の穎右氏でした。将来は社長を継ぐことが約束されている御曹司ゆえに、妻となる女性に仕事を辞めてもらいたいという考えは昭和20年代にはごく普通のことだったのでしょう」(テレビ誌ライター)
それに対して愛助は、舞台で歌い踊るスズ子を観るのが大好き。その気持ちは村山興業で働き始めてからもなんら変わらず、スズ子が喜劇王・タナケン(生瀬勝久)の舞台で好評を博せば、新聞記事を喜んで切り抜いていたほどだ。
決して現実とドラマを一致させる必要はないとはいえ、設定を真逆に変えてしまうのはやり過ぎにも思えるもの。果たして制作側はどんな狙いをもって、これほど思い切った設定変更に踏み切ったのか。実はそのヒントが今回、スズ子の口から明かされていたとの見方もあるというのだ。
スズ子の付き人を長年務めていた小夜(富田望生)は、米兵のサムからのプロポーズを受け、アメリカに行くことに。創作上の人物で作品を彩ってきた小夜とスズ子がついに、別れる時が来た。
ここでスズ子はサムへの非礼を詫びつつ、小夜のことを「家族同然」と呼び、その別れを惜しんでいたのである。
「本作では一貫して、スズ子にとって『家族』が重要なタームとなっています。養女であるスズ子は両親や弟と血が繋がっていないことを知りますが、義母のツヤ( 水川あさみ)が亡くなるときには本当の母親を失ったかのように悲しみ、義父の梅吉(柳葉敏郎)との同居生活ではだらしない父親としっかり者の娘という父娘関係を送っていました。弟の六郎(黒崎煌代)が戦死した際には、実の弟を亡くしたのと同様に悲しんでいたものです」(前出・テレビ誌ライター)
いまや義父の梅吉は出身地の香川に戻ってしまい、天涯孤独になったスズ子。それゆえ付き人の小夜には深い愛情を注ぎ、恋人である愛助への傾倒具合は「新しい家族」を得た喜びに満ちていると言えるだろう。
それゆえ愛助から「仕事を辞めてくれ」と言われてしまったら、スズ子にとっては二重に自己否定されたも同然だ。本作が「家族」を重要な要素としている以上、愛助とスズ子の愛情はあくまでも深くなければいけない。それゆえ愛助にスズ子の仕事を否定させるわけにはいかないというものだ。
「その悪役を、大阪に住む愛助の母親・トミに任せるのが、物語が最もしっくりする方法なのでしょう。今後はトミが再び登場するはずですが、果たしてスズ子にとって悪役であり続けるのか。それとも恋人の母親として新たな家族になっていくのか。制作側の腕の見せ所となりそうです」(前出・テレビ誌ライター)
本編終了後に放送された次週予告を見れば、来週には新たな別れが描かれるのは確実。視聴者はその別れを覚悟しつつ、スズ子にはもっと幸せになってほしいと願っているに違いないだろう。