二人の結婚話よりも、料理の内容が気になる! そんな声もあがっていたようだ。
1月23日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第78回では、ヒロインのスズ子(趣里)と恋人の愛助(水上恒司)を巡り、結婚話が進展。愛助が母親で村山興業社長のトミ(小雪)を自ら説得すると決心しつつ、咳き込んで吐血するという衝撃的な場面で幕を閉じていた。
果たしてスズ子と愛助は無事に結婚できるのか。そして愛助の体調は大丈夫なのか。そんな興味が募るなか、甲斐甲斐しく愛助の夕食を作るスズ子の料理シーンもまた、大きな注目を浴びていたようだ。
「ほうれん草の胡麻和えを作るスズ子は、すり鉢に醤油らしき調味料を大量に投入。通常のレシピではほうれん草一束に対して醤油が大さじ1杯ですから、あれではしょっぱすぎるに違いありません。しかも彼女は味噌汁らしき鍋にも塩を大さじ3杯も投入。戦後まもなくのころにはふかしいもに付ける塩さえ事欠いていましたから、よほど塩分が恋しいのかと、視聴者も恐れおののいていました」(テレビ誌ライター)
調理指導のスタッフはいないのかと訝る人もいるほど、いい加減な描写には驚きだ。いくら本筋に関係のない部分とはいえ、戦争前後を描くドラマとして演出の拙さが目に付くのはいかがなものか。
そうなると気になってくるのは、家の中にある日用品も、昭和20年代前半という世相をちゃんと反映しているのかということ。作中にはラジオや電灯が出てくるなど、戦後の電気事情を再現した描写も多い。それ以外の日用品はどうなっているのだろうか。
多くの視聴者が疑問に思ったのは、スズ子が料理にガスを使っていたことだろう。戦後間もなくの時代に家庭でガスを使っていたものだろうか。この点に関しては、作中に登場したガスコンロは実際に、昭和初期に普及していたのが正解だ。
明治5年に日本で初めてのガス灯が灯り、ガスは産業用を中心に普及していく。明治後期には輸入品のガス調理器具が使われるようになり、大正期には国産品も登場。昭和初期には一般家庭にも広まり、昭和13年時点で東京ガスの供給エリアには100万件もの契約者がいたという。それゆえ愛助の自宅でガス器具を使って料理をしていたのは、なんら不思議ではないのである。
一方で台所にはホーローの赤いケトル(湯沸かし)が置かれていた。いかにも昭和レトロな代物だが、昭和初期の時点ですでに普及していたのか? 実はこちらも当時、ごく一般的な製品だったのである。
ホーロー自体は歴史が古く、それこそ江戸時代にはすでに存在していた。その頃はさすがに貴重な代物だったが、明治14年に開催された勧業博覧会にはホーロー製品が出展。前作の朝ドラ「らんまん」で主人公の万太郎が実家の清酒を出展していた博覧会だと言えば、お分かりの視聴者も多いことだろう。
国内では明治後期から大正にかけてホーロー製品の生産が増え、昭和初期には熱にも錆にも強い器具として一般家庭にも普及するようになっていた。よってこれも愛助宅に置かれているのは時代考証的に正解なのである。
最後に、スズ子の髪型に注目していた視聴者もいるだろう。料理中のスズ子はいわゆるアメピンで髪を留めていた。果たしてこの時代にアメピンなど存在していたのだろうか。
日本では古来からかんざしやこうがい(筓)といった髪留め用具が使われてきた。そこに金属製のピンがもたらされたのは、大正期に電熱パーマ機がアメリカから輸入されたのと同時期だったという。
アメピンや、ピンが波型になったボブピンは、パーマ以外の髪型でも使われるように。それこそスズ子のようにステージに立つ芸能人は、当たり前のようにヘアピンを使っていたのである。それゆえ彼女がアメピンを髪に刺して料理するシーンは、時代考証通りだと言えそうだ。