さっきまでの怒りはどこに行ったのか? そう訝る視聴者も多かったようだ。
2月14日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第94回では、ヒロインのスズ子(趣里)がパンパンの親分的存在であるおミネ(田中麗奈)の元を訪問。最初は招かれざる客として集中砲火を浴びるも、スズ子の一言をきっかけに和解する場面が描かれた。
おミネは前回、ゴシップ誌「眞相婦人」に掲載されたスズ子のインタビュー記事に憤慨し、楽屋まで押しかけることに。記事の内容はスズ子がパンパンたちに理解を示すというもので、記者の鮫島(みのすけ)が捏造したも同然の内容ながら、おミネはスター様のスズ子が自分たちを見下していると怒りまくっていた。
おミネに誤解されていると感じたスズ子は、おミネに直談判。腹を割って話したいというものの、パンパンとスター様では立場が違い過ぎて分かり合えるとは思えないと反論される始末だ。
「おミネは『あんたは好きでもない男に抱かれたことあるのかい?』とド直球の質問。戦争で家族を亡くし、金も食べるものもないなか、生き延びるために必死だったと語りました。その一方で世間に持ち上げられ、お気楽に歌っているスズ子とは立場が違うと激高。果たしてスズ子がどう反論するのか、視聴者も固唾を飲んで次の展開を待っていたのですが…」(テレビ誌ライター)
この緊迫した状況でスズ子は何を主張したのか。スズ子は「お気楽なんかやない!」と叫び、「ワテかて死に物狂いや」と反論だ。いったい何が死に物狂いだったのか。
スズ子は母親が病気で亡くなり、弟が戦死し、一番大切な人(恋人の愛助)も結核で死んだと吐露。「祈っても拝んでも愛助さんにはもう会われへん」とつぶやき、未だに愛助の丹前を抱いて寝ていると明かした。
そのうえで愛助の忘れ形見である赤ん坊を何が何でも育てなあかんねんと語り、「娘を育てよう思うたら寂しい、悲しい、言うてられへん」と言って落涙。「ワテかて必死や」と主張すると、パンパンたちは自分たちが夫を戦争で亡くした悲しみなどを告白。「さっきは帰れなんて言ってゴメンよ」「あんたを誤解してたみたいだね」などとスズ子に詫びたのだった。
「この展開に視聴者はびっくり。スズ子が明かした境遇はたしかに悲しいものではあれど、戦後の日本ではほぼ誰しもが家族を戦争や病気で亡くしており、何ら特別なものではなかったからです。しかもパンパンたちとは違い、スズ子は食べることに困ることも、生活のために好きでもない男たちに抱かれることもありませんでした。そんな境遇を『お気楽』だと糾弾していたはずなのに、なぜパンパンたちがいきなりスズ子に同情的になったのか、視聴者は煙に包まれた思いだったのです」(前出・テレビ誌ライター)
しかもスズ子は、赤ん坊をマネージャーに預けていると説明。そのこと自体、彼女がいかに恵まれた環境にいるのかを自ら明かしたもの同然ではないか。
その状況でパンパンたちがスズ子と和解した展開には視聴者から<1ミリも理解できない><むしろもっと怒りが増幅しそうな話だが…>と当惑の声があがるのも無理はないだろう。
「そもそも今回のエピソード自体、史実改ざんと言えるもの。スズ子のモデルである笠置シヅ子は『東京ブギウギ』が大ヒットした当時、子持ちの未亡人ながら活躍していたことによりパンパンたちから高い支持を得ていたのです。しかも彼女たちが洋裁の技術などを学べる更生施設の設立にも関わるなど、スターながらパンパンたちとの交流も積極的に行っていました」(前出・テレビ誌ライター)
それが作中ではなぜか、おミネがスズ子に噛みつくという話に改変されていた。物語をドラマチックにするための演出かもしれないが、肝心の和解シーンで視聴者の理解を得られないのでは本末転倒というもの。本作ではスズ子をいったいどんな人物に描きたいのか。これでは視聴者の気持ちがどんどんスズ子から離れてしまうのではないかと危惧されるところだろう。