あえて史実を改変した狙いはどこにあるのか。視聴者も首を傾げているようだ。
2月29日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第105回では、ヒロイン・スズ子(趣里)のマネージャーを務めていた山下(近藤芳正)が辞めることに。後任として自分の甥である柴本タケシ(三浦りょう太)を連れてきた。
村山興業のベテランだった山下とは異なり、柴本は現在無職なうえにマネージャー業もまともに務まらない様子。なぜそんな頼りない若者を連れてきたのかも疑問だが、そもそも柴本は架空の人物だという。
「本作はブギの女王こと笠置シヅ子をモデルにしており、笠置が全幅の信頼を置いていたマネージャーは作中と同じ昭和25年に解雇されています。理由はギャンブルにのめり込み、笠置の貯金350万円(現在の3億円相当)を横領したから。ところが作中では山下が、かつて勤めていた村山興業のトミ社長(小雪)が亡くなったことで気が抜けてしまったという、なんともふわっとした理由に差し変わっており、どうにも不自然感は拭えません」(テレビ誌ライター)
本作ではこれまで梅丸少女歌劇団での労働争議や、戦時中の軍部による洋楽の弾圧など負の部分も描いてきた。それならスズ子が頼っていた山下による裏切りも描くべきではないかと訝る視聴者も少なくない。
一方では時代が戦後となり、スズ子が国民的スターとして活躍する姿を描くはずが、当のスズ子はなぜだかいつも時間に余裕があり、スター感はさほど感じられない始末。幼馴染のタイ子(藤間爽子)や、スズ子を熱狂的に支持していたはずのラクチョウのおミネ(田中麗奈)に関しても、数回の出番で“倉庫行き”になるなど、駆け足感が目立つ有様だ。
昨年放送の前半では、笠置シヅ子の人生を丁寧にトレースしたうえで、ドラマとしてのドラマチックな脚色が物語を彩っていた。それが今年に入ってからはドタバタした展開が目に付くのだが、そこには何か理由があるのだろうか。
「気になるのは放送があと1カ月しかないということ。笠置シヅ子に関してはここからアメリカ巡業という一大イベントがあるほか、美空ひばりとの確執という芸能史に残る一大トピックもあります。ほかにも歌手廃業宣言や、昭和31年の第7回紅白歌合戦では大トリを務めるなど描くべきエピソードはいくらでもあるはず。ところが戦時中の混乱や愛助(水上恒司)との恋愛話に回数を割き過ぎたことから、ここからがあまりに駆け足にならざるをえないのは実に気になるところです」(前出・テレビ誌ライター)
アメリカ巡業や美空ひばりとの確執は、マネージャーを解雇した時期とほぼ一致している。それらのビッグイベントを次々と描いていくためには、マネージャーの使い込みと解雇に回数を割くわけにもいかないということだろうか。
これでアメリカ巡業がちゃんと描かれなかったら、戦後の芸能史をベースにした物語としてはあまりにも物足りないというもの。開始当初は「朝ドラ史上に残る傑作になる可能性」すら噂されていた「ブギウギ」が、尻すぼみな作品になってしまわないことを祈るばかりだ。