その反応は不自然じゃないの? そんな疑問を抱く視聴者も多かったようだ。
3月19日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第118回では、若手歌手の水城アユミ(吉柳咲良)がヒロインのスズ子(趣里)に対し、「ラッパと娘」を歌わせてほしいと直談判する姿が描かれた。
その「ラッパと娘」はスズ子のデビュー曲であり、コンビを組む作曲家の羽鳥善一(草彅剛)が初めて提供した楽曲。スズ子にとっては当然、思い入れの深い曲だ。
アユミは「私が歌手を本気で目指すきっかけになった歌なんです」と告白。「先生の歌う姿に心を奪われて、私もこんな風に歌えたら」と、大きな衝撃を受けたことをアピールしていた。
そんなことを言われたらスズ子も感激して「ぜひ歌ってください!」と返しそうなもの。ところがスズ子は複雑な表情を見せながら、「せやけど羽鳥先生に聞いてみんことには、なんとも…」と後ろ向きな返事を返すばかりだ。
「今回のエピソードは、本作のモデルである笠置シヅ子と新進歌手だった美空ひばりの確執をベースとしています。デビュー当時の美空は『ベビー笠置』と称されており、笠置の持ち歌を歌って人気を博していました。それに憤っていたのが羽鳥のモデルである作曲家の服部良一で、美空が笠置の曲を歌えないように圧力をかけていたほど。笠置の人気に陰りが見え始めていた時期でもあり、服部は美空に対して大いに不快感を抱いていました」(芸能ライター)
本作にいつ、美空ひばりに相当する若手歌手が出てくるのかとやきもきしていた視聴者にしてみれば、やっとこのシーンが来たかというところだろう。
作中では写真数枚で済まれていたスズ子のアメリカ巡業でも、本来なら水城との確執が描かれるべきだった。というのも笠置シヅ子がアメリカ巡業を行った際には、美空ひばりが先行してハワイに渡り、現地で話題となっていたからだ。この時、美空は笠置の歌を歌わないように念を押されていたが、実際には現地で歌っていたことも分かっており、それもまた確執を深める結果となっていた。
その流れで言えば今回、スズ子がアユミ側の申し出に表情を曇らせたのも当然だろう。だが「ブギウギ」を序盤から見続けてきた視聴者にしてみれば、スズ子の態度はどうにも不自然に映ってしょうがないのである。
「美空ひばりを想起させるキャラクターのアユミですが、彼女はスズ子が尊敬していた大先輩である大和礼子(蒼井優)の忘れ形見。父親の股野(森永悠希)も大阪時代にお世話になっていたピアノ奏者です。その娘であるアユミの願いなら、スズ子は喜んで『ラッパと娘』を歌ってもらいたがるはず。ここでスズ子がアユミに対して否定的な態度を取ることは、大先輩の礼子に対する裏切りではないでしょうか」(前出・芸能ライター)
そもそも今回、スズ子は「義理と人情」の重要さを訴えていたはず。娘の誘拐未遂を働いた小田島(水澤紳吾)を家事手伝いとして雇い入れた時も、亡き母のツヤ(水川あさみ)から受け継いだ“義理と人情”を強調していたものだ。
それならばアユミの願いにも即断即決で応えるのが義理と人情というもの。ところがこちらは一転して否定的な態度を取るのだから、たった一話の中でも矛盾した振る舞いを見せていることになる。
「これも結局、水城アユミを大和礼子の娘にした設定に無理があるから。笠置と美空の確執を直接描くのをあえて避けたのかもしれませんが、結果的に矛盾をはらんだ筋書きになってしまったのは残念なところです」(前出・芸能ライター)
笠置と美空の一件では、憤っていたのは作曲家の服部良一のほうであり、笠置自身はさほど気にしていなかったとの話も伝わっている。果たしてスズ子は今後、アユミに対してどういう態度を取るのか。残り8回となった放送の中でどんなハッピーエンドを見せてくれるのか、制作陣のお手並み拝見といったところだろうか。