こんないい加減なプロフィールをよく、ドラマに仕立てたものだ。そう呆れかえる視聴者も少なくないという。
3月22日のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第121回では、昭和31年の大みそかに開催された「第7回 オールスター男女歌合戦」の模様を放送。新進歌手・水城アユミ(吉柳咲良)が「ラッパと娘」で勢いと技術を兼ね備えた歌唱を披露した。
その「ラッパと娘」はヒロイン・スズ子(趣里)のデビュー曲。追われる立場となったスズ子だが、同曲を歌いたいという水城の希望を快く受け入れていた。正々堂々と新旧対決を受けることが、水城の母親で尊敬していた先輩の大和礼子(蒼井優)に対する礼にもなると考えたのだろうか。
ともあれ吉柳が披露した水城のステージは、若さと艶っぽさを兼ね備えており、視聴者もそのパフォーマンスには感心していたことだろう。一方では冒頭で明かされた水城のプロフィールに「それはないだろう」と呆れる声もあがっていたという。
「スズ子のマネージャー・タケシ(三浦獠太)は『許せない…』と憤りながら、ゴシップ誌の眞相婦人に掲載された福来スズ子vs水城アユミの記事をスズ子に見せました。そこに掲載されている水城のプロフィールが史実に反しているばかりか、現実にもあり得ない内容となっていたのです」(テレビ誌ライター)
記事では水城について「レコードデビューしていないものの、歌番組や歌謡ショーの若手ゲストとして引っ張りだこの期待のスターである」と説明。これは水城のモデルである美空ひばりのプロフィールとは大きくかけ離れたものだ。
スズ子のモデルである笠置シヅ子との確執が知られる美空は、昭和24年に「河童ブギウギ」でデビュー。同年の2ndシングル「悲しき口笛」が45万枚のヒット曲となったほか、昭和30年にリリースされた「東京キッド」は現時点で120万枚を超える大ヒット曲だ。
紅白歌合戦に関しても昭和29年の第5回に初出場しており、今回の劇中で描かれた昭和31年の第7回にこそ出場していないものの、昭和32年の第8回では早くも大トリを務めている。つまり劇中当時の美空ひばりは明らかに「レコードデビューしていない期待のスター」などではなかったのである。
「そもそも昭和30年前後の時点で、レコードデビューもしていない若手歌手が歌番組で引っ張りだこになることなどあり得ません。SNSではこの件に関して《YouTubeも配信もない時代だぞ!?》といった真っ当な批判も浮上。レコードデビュー前の水城が年末の歌合戦番組でトリ前に抜擢されるなど、当時の芸能界では許されるはずもないのは明らかです」(前出・テレビ誌ライター)
どうやらNHK側は笠置シヅ子と美空ひばりの確執をそのままには描きたくなかったようで、美空に相当する水城をあえて、大和礼子の忘れ形見という存在に置き換えていた。
それはそれで一つの方便だが、さすがに「レコードデビュー前」はやり過ぎではないだろうか。そんな超若手歌手に位置付けることにさほどの意味があるとは思えないのも無理はないだろう。
この「ブギウギ」ではことあるごとに、スズ子が華麗なステージを披露する場面をクライマックスに持ってきている。視聴者としても華麗な歌唱シーンは歓迎したいところだが、その背景がいい加減に描かれるのはさすがにドラマとしていかがなものか。
次週はいよいよ最終週となるが、視聴者が納得するような有終の美を飾れるのかどうかは、疑問が残るところだろう。