数年前までは「顔は知っているのに名前が出てこない俳優」というキャッチフレーズで知られていた野間口徹。しかし今や野間口が「出演していないテレビドラマ」を探すことのほうが、もしかしたら、「出演しているテレビドラマ」を探すより格段に難しいかも…。そんなふうに思えるほど、野間口は売れっ子役者になった。
実際、ネット上には「このドラマにも野間口さんが出てる!」「野間口さんはちゃんと休みがあるのだろうか?」「気付けば私がこの1年間で見たドラマのすべてに野間口さんが出演していた!」等々の声があり、多くの人々から顔と名前をしっかりと認知され愛されるようになった。
2016年公開の映画「海賊とよばれた男」で岡田准一演じる出光興産創業者をモデルにした主人公を陰で支える頭脳派店員を好演した野間口は、「シネマトゥデイ」の取材に対し「主役を輝かせる立ち位置がとにかく楽しい」「主役はやりたくないんです。背負うものがあまりにも大きすぎて」「スケジュールの問題以外で初めて仕事を断るかもしれません。万が一受けても共演者頼み。共演者に振り回される主役なら何とかなるかも?」といった“バイプレイヤーLOVE”な言葉を残していた。が、ついに主演を務める日がやって来た。それが、4月1日スタートで現在放送中の暴力とも子(ばいおれんす・ともこ)氏による同名漫画原作のNHK夜ドラ「VRおじさんの初恋」だ。野間口は主人公・遠藤直樹を演じて多くの視聴者の心を鷲づかみにしているのだ。
直樹(野間口)は成功体験と呼べるものがない、さえない40代独身男性。半年後にサービス終了予定の人気のなくなったVRゲーム「トワイライト」で制服姿の女の子・ナオキ(倉沢杏菜)となり、1人で「トワイライト」の終焉を見届けようとしていた。ところが天真爛漫な美少女アバター・ホナミ(井桁弘恵)と出会い、現実でも人付き合いが苦手な直樹=ナオキは、戸惑いながらもホナミと過ごす中で次第に心惹かれていく…というストーリー。NHK財団が運営するWEBサイト「ステラnet」の3月29日付記事で、野間口は、このドラマの脚本を読み「直樹は今まで演じたどの役よりも自分に近い思想の人間。何か約束をした時、その日が近づいてくると憂鬱になるとか、人と関わりを持ちたくないのにコミュニケーション能力が高い人を見ると嫉妬してしまうとか」と自身との共通点を明かしている。
直樹の胸の痛みのリアルさ、初めての恋の息苦しさ、VR世界が現実世界を侵食する速さを、野間口ならではの表現力と演技力で存分に味わえる出来栄えとなっている。どこにいても居心地が悪く、誰といても落ち着かない人には特におすすめだ。