アニメ・漫画のファンの間では作品の舞台となった土地や建物などを訪れることを“聖地巡礼”と呼ぶ。
その火付け役とされるのが埼玉県久喜市鷲宮地区だ。特に鷲宮神社は女子高生の日常生活を描いたコメディアニメ「らき・すた」で、登場人物の柊かがみ・つかさ姉妹の父が宮司を務める神社のモデルになり、参詣者が激増して話題になった。
まずは東武スカイツリーライン鷲宮駅東口から鷲宮神社へ。アニメの初放送から17年が経つが、柊姉妹を描いた旗が街灯に下がり、鷲宮郵便局のポスト脇に柊つかさ等身大像が建つなど相変わらずの人気だ。
鷲宮神社は関東最古の大社と言われ、拝殿の奥に天穂日命と武夷鳥命を祀る本殿と大己貴命(大国主命)を祀る神崎社の2社が並んでいた。周囲には鎮守の森が広がり、八幡社、鹿島社、神明社などの境内社が鎮座している。森の中は神聖な空気で満ちあふれ、清々しい気持ちになった。
拝殿向かいの神楽殿では年6回、関東神楽の源流とされる「土師一流催馬楽神楽」が奉納される。次は神楽を目当てに訪問するのもいいだろう。
大鳥居からまっすぐ伸びる県道を15分ほど歩き、葛西用水路に架かる古川橋を右折。水路沿いのコスモスふれあいロード(遊歩道)を進む。最初の霞ヶ関橋に着いたら、遊歩道を離れて西大輪神社に寄り道する。
ごく普通の神社に見えるが、説明板を見てビックリ。下草の映える境内は平安期から室町期に形成された“砂丘”の一部という。正しくは河畔砂丘といい、東京湾に流れていた頃の利根川が運んだ榛名山や浅間山の火山灰などが、季節風により堆積したそうだ。鳥取砂丘のように砂丘は海側という印象だったが内陸にもあるとは…。いい勉強になった。
遊歩道に戻り、東武線の高架をくぐる。ゴールのJR・東武線久喜駅までは30分ほどだが、少し遠回りして甘棠院を訪ねた。室町期の第2代古河公方・足利政氏が隠棲した館を起源とする臨済宗の古刹で、空堀や政氏の五輪塔(墓)があると説明板に記されている。
中門をくぐるともう一つ閉じた門があり、その奥に本堂が見える。境内の墓地を探したが五輪塔は発見できない。途方に暮れていると、偶然にもお寺の方とお会いでき、閉じた門内にあると教えてくれた。さらに五輪塔まで案内いただき、墓参することも。突然の訪問にもかかわらず、丁寧に対応してくださった親切心に胸が熱くなった。
内田晃(うちだ・あきら):自転車での日本一周を機に旅行記者を志す。街道、古道、巡礼道、路地裏など〝歩き取材〟を得意とする。